鏡の前、髪が跳ねていないか確認する。死角になる後ろ側も左右を向いてみる。問題なさそうでホッとする。髪が跳ねていると出かけて気が付くのはとても焦るので一番避けたい。
 髪のセットが問題なければと鏡に映る姿を確認する。口元はお気に入りのルージュを選んだ。余裕をもって支度をしたので顔の仕上がりは上々だと思う。血色の良さそうな自分を見て笑ってみる。顔自体は作れたけど上手に笑えてるか自信はない。
 とりあえず顔回りも大丈夫だと、次は姿見の前に立つ。数日前からあれこれ悩んで決めた服の組み合わせも自信があったはずなのに大丈夫だろうかと妙にソワソワしてしまう。大丈夫なはず。好きなものを組み合わせたのだから。
 そうやって先ほどから何度も鏡で顔回りと全身と比べて見ては落ち着かない気分でいっぱいだった。手を動かしてれば顔の前でふわりと香るオードトワレ。つけすぎじゃないかしら、といつもなら楽しくなる香りだっていつも通りじゃなくなってしまう。

 ふと時計を確認すればあっという間に出かける時間だ。あんなに早くから準備していたはずなのに!
 不安と楽しみとが入り混じったソワソワは焦りが混じり始める。用意していたカバンを手に玄関へ急ぐ。靴だって今日のためにと一番かわいいものを選んだ。全部、今日のために万全にしたはずだけど相手に会うまでは不安でいっぱいだった。こんなにソワソワしたのはいつ振りだろう。
 慣れない感覚に面映ゆい気持ちもある。でもこんな日もたまにはいいのかもしれない。不安と期待とが入り混じる感覚は浮足立って落ち着かないけれど楽しむ自分も確かにいた。
 今日の私が一番かわいくありますように!
 早鐘の鳴る胸に、緩む頬に、足取り軽く私は家を飛び出した。


(Have a wonderful day!)