心地良い、ひんやりとした空気が肌に伝わる。
どこから伝わってきたのだろうと思えば眼前に青い世界が広がっていた。底まで透き通る湖だ。湖水の冷たさが風に乗ってきたのだ。
昔はそこで人が暮らしていたんだろう。なぜなら透き通った湖の底には街並がある。時を止めたように崩れた部分もなく綺麗に、静かに佇んでいる。大きな箱のような施設を中心に家々が広がっている街だ。思わず首を傾げる。その施設を私は知っている気がするのだ。
目を凝らして見てもその街並みが遠いのか近いのか、水が透明すぎてよくわからない。けれど不意に街並みよりも高い位置に横たわる人影を見つけた。
浮き上がることも沈むこともなく街と水面の間にたゆたうその姿は人形のような精巧さを感じたけれど人だった。
だって、私はその子を知っている。
そう思った瞬間、沈んだ街並が自分が住んでいた街であること、大きな箱が基地で、街を守るものであることを思い出す。何より、眠るような彼のことを思い出した。
「遊真」
その名がスイッチだと言わんばかりに私の視界は白い天井が広がっていた。薄暗い。夜明け前の部屋、私の部屋。
「遊真」
考える間もなくもう一度名前を呼ぶ。今度は空気に震えて音が出た。
湖に沈む彼に届いただろうか。届いていたらいいなと思う。
夢と現実の境目で私は重たい瞼に負けて目を閉じる。
もう一度あの美しい湖に沈む彼と出会いたかったけれど朝目が覚めた時、彼の名を呼んだことどころか夢ごと全て忘れてしまっていた。
(ララバイ)