体の奥を突かれる感覚で頭が真っ白になる。
 何もかも放り出して快さに身を任せる。もっと、とただそれだけを求めて言葉にもならない音を震わせる。今だけは欲望の赴くまま、気持ちよくなれればよかった。
 それがどれほど続いたのか、ある瞬間、相手は小さく声を漏らし、ふるりと体を震わせた。
 ぐたりとしてしばらく。私の中から抜け出しごそごそした後に横でごろりと仰向けになった。

「いやいやいやいや慶ちゃんちょっと待て」

 先程まで言葉を知らない生き物になっていたけど途端に我に返った。
 こちらも満身創痍みたいなものだったが口だけは動いた。脳みそもなんとかツッコミをできる余力があった。

「んー?」

 その返事の気の抜け方に思わず顔をしかめた。上体を起こし、返事通り一息ついている相手を見れば自然と眉間の皺がさらに刻まれる。
 出すだけ出してすっきりしているのはお前だけだと罵りそうになる。品がないけど事実その通りなのだから仕方ない。

「一人だけ満足するのなしでしょ」
「んー」
「オイコラ」

 ムカついて仰向けでだらける慶ちゃんに覆いかぶさり、遠慮はいらないなとお腹の上に乗ってやった。

「おおー」
「なに」
「良い眺めだなと」
「……やる気出た?」

 へらりと笑う姿は一見やる気などなさそうだが私は知っている。これは乗ってくる顔だ。

「このまま攻められたらやる気出そう」
「こんにゃろ」

 怠惰な相手に一泡吹かせてやろう。私はにこりと笑い、とりあえず脇腹の弱いところをくすぐることにする。
 うお、とかわいらしさのない野太い声が上がる。制止の声が上がるよりも先に私の腕を掴まれた。加減はされててもぴたりと動かなくなる。

「だめ?」
「だめだろ」

 小首を傾げて甘さの含む声で微笑んで見せるが効果はいまいちだったらしい。
 仕方がないので片手で体を支えながら顔を近づける。唇をついばみすぐに離れれば楽しげに揺れる瞳と目が合った。

「だめ?」

 先程と同じように小首を傾げ、甘い声で微笑んで見せる。今度の慶ちゃんは即答はしない。
 その代わりにやりと笑って続きを催促してくる。
 困った彼氏だと、ようやく乗り気になった相手を前に私はもう一度思考を放り出すことにした。





(あなたに夢中)