ボーダーで花形部署は当然防衛部署だろう。それから幹部がそろう上層部とそこに付随する組織。
具体的に言うなら学生たちがほとんどを占め、ノーマルトリガー最強の男と言われる忍田さんが取りまとめる防衛の要である本部、根付さんをトップにしたメディア対策室、鬼怒田さん筆頭の開発室、ボーダーを存続させる上で欠かせない営業部。
ただそういった部署だけでこんな大きな組織が回るかというと回るわけはない。
新しい組織なので兼任だったり部署そのものがいろんなこと幅広く請け負っているということはあちこちありうるのだが縁の下の力持ちもいる。
頭抱えながらメディア対策室と時々ねじが外れたように笑いだしているのは法務部だし、笑顔でスポンサーから資金をもぎ取ってくる唐沢さんを拝めているのは財務部だ。
私がいる総務部は人事部もあるけれどそちらは隊員募集の採用で年がら年中忙しく、入隊後の隊員・職員の管理にも日々忙殺されている。では問題。隊員だけでも常時とは言わず入れ代わり立ち代わり百人単位で人が過ごしている上、職員側は下手したら生活しているのではというぐらい滞在時間が長い人間も多い。
あちこちの廊下に自販機はあり、休憩スペースもあれば食堂もある。備品は職員の事務局・作戦指令室・会議室・執務室はもちろん隊室にだって必要だ。つまり人が生活する上で物理的に物が必要となる。
だがしかし、ボーダーという組織は機密事項が多く、本部内に入るにはそれなりにセキュリティがかけられており、外部の業者の立ち入りに関しては割と厳しい。だがしかし日々の備品管理は必要で、外と遮断するわけにはいかない。
じゃあどうするかって、外部と接触する部署を作り、物資の受け取り場所を危険区域の境界に作り、そこから地下通路で本部と繋ぐのだった。そして職員が配送をしたり、場合によっては業者に立ち合い本部の中の設備をメンテナンスする。つまりそれが設備管理課、別名何でもしてくれる課だった。設備管理どころか清掃業務もあれば社内便配達もついでにしており頼まれたらわりと請け負っているため庶務課でよかったのではとは思うが後の祭りである。略しようもないしお子様たちは大人の唱える部署名などどうでもいいのでだいたい総務の人、もしくは何でも屋さんで済まされる。たまに庶務課の人とも呼ばれる。全部正解。
「はじめまして。烏丸です。前任の加藤さんが寿退職されたので今日から隊室周りの備品配送とここのお掃除は私が担当するのでよろしくお願いします」
ぺこり。
一応引き継ぎで訪れてはいた太刀川隊隊室は月に一度程度テコ入れしたらいいと言われたけれどこれ一か月ためたら私がきついと、勝手に配送日に適宜片づけられそうなところは片づけようと心に決めた。自分の部屋は置いといて、お仕事として掃除するのはまっとうしなければ。
設備管理課も何でも屋なので人員が必要なのだがほいほい新人さんを配属してくれる場所でもない。なにせ一番職員・隊員の実情を調べるにはちょうど良いのだ。開発室にだって入っても怪しまれない。スパイにとってこんな便利な所属はないだろう。
なので雑務が多いと思われるけれど配置される人は基本的に内部での調査を受けて白判定がついた人がついている、まあまあそれなりに大事な部署なのだ。やってることは雑用なんだけども。でもみんな城戸指令のお気に入りの文具とか知らないと思うから、これもまた機密事項だと思うんだよね。
「はじめまして~。国近です。あっちにいるのが出水くん。隊長は太刀川さんなんですけど今模擬戦行って帰ってこないのでそのうち機会があれば~」
「ああ、太刀川くんなら知ってるからそのうちここで会ったら挨拶するね」
出水くんとも挨拶を済ませ、そして物が散乱している部屋を見渡した。
なかなか大変そうな部屋だった。
「触っちゃダメなものとかあれば教えてね。それ以外で部屋で散らばってるものは触ってよしってことにしますので」
「はーい」
まさかここから太刀川隊作戦室に立ち寄りたくないからと結局月に一度だけの掃除になるとは思ってもいなかったし今まで以上に人のことをいじって楽しむ太刀川慶が待ち受けているなんてこの時点での私は思いもしていなかったのだった。
(習作1)