「ちゃん大丈夫?」
事が終わってベッドの中でぼーっとしている私の顔に貼り付いた髪を鋼くんは指でそっと後ろに流してくれる。そして今日もいつもと同じように大丈夫か聞いてくれた。
先程までの熱のこもっていた瞳が、今は私のことが心配だって言わなくても伝わってくる。それはすごく嬉しくて何度でも私の心をくすぐるけど、今日は求められてる言葉を答える気はない。
「大丈夫、じゃない」
「えっ」
そんなはずは、と焦る姿にやっぱりと気づかれない程度にため息をついた。優しくされるのが不満なのは贅沢なのかもしれないけど、譲るわけにはいかない。
「強化睡眠能力をこういう時に応用しない」
「でも」
鋼くんは優しい。とっても。気遣いもできるし彼のサイドエフェクトによって痛がる強さで触れることは一度してしまえば次はない。逆に気持ち良い反応がわかればそこは絶対に外さない。そういう意味で鋼くんの大丈夫かという問いかけは十分すぎる程で、文句がないと言えば間違いでもない。
生身でも鍛えている鋼くんの体は私のふやふやな体と違って筋肉がついている。マッチョという程がっちりではなくてもちょっとずつたくましくなっていると思う。鋼くんは努力家なのだ。でも、何でも素直に努力しすぎだと思う。
「鋼くんは優しいんだよ」
「え?」
そして優しすぎるとも言う。
優しくして欲しい私の気持ちを目いっぱい気遣ってくれて、その結果私は満たされたがゆえのわがままを持ってしまった。
「だから、その」
「うん」
今日は言うぞと、よしと決めたはずなのにいざその場になると気恥ずかしさが増してしまう。
私の初めては鋼くんで、鋼くんも初めては私だ。初めてキスした時は歯が当たってお互い恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたし、初めてした時は自分の裸を見られるのが恥ずかしいのと鋼くんの裸がたくましいのでドキドキで顔を真っ赤にしていた。
ちょっとずつ。大丈夫かなとお互い確かめながらやって来て、鋼くんとするのは嬉しいって気持ちが一番だけど気持ちが良いっていうのもわかってきた。わかってきたから、私はちょっとばかりわがままになってきた。
「私に気を遣ってくれるのは嬉しいの」
「うん」
「でもね、私だって鋼くんが、その」
「?」
わかってくれないことがもどかしく、わかっていないことがかわいい。かわいけどわかってほしい。
そう思って見つめてみてもきょとんとした顔で首を傾げ、それから気遣わし気に私を見つめてくるだけだ。かわいい。目で全て通じてほしいけど通じない時の顔もかわいい。
かわいいからいつまで経っても進めない。ぐっとお腹に力を入れ、ええいままよと口を開く。
「私だけじゃなくて鋼くんが気持ちよくなって欲しい」
「え」
かっと熱が出たみたいに鋼くんの頬が赤くなっていく。私も自分の顔が熱くなってるのを感じながら、口にしてしまったのだからと続ける。
「鋼くんは私のこと見てすぐわかるかもしれないけど、鋼くんのこと私にちゃんと言って欲しい。鋼くんみたいにすぐ覚えられるわけじゃないけどがんばるから」
「うん」
「鋼くんの好きにしていいんだよ」
真っ赤になっている鋼くんの頬に手を添える。私の手のひらよりも熱くなった頬はすべすべだ。にきびとかできたことなさそうで羨ましい。お菓子控えようかな。恥ずかしさのあまり関係ないことばかり考えながらも頬を、指先で耳朶もいじれば鋼くんは目を泳がせている。けど、瞳が気遣うだけのそれから期待するようなものも入っている。
「好きにしていいって、本当に?」
「嘘なんかつかないよ」
じゃあ、と言うと今度は鋼くんが私の頬に手を添え顔を近づけてくる。あっという間に唇を塞がれ、反射的に逃げかけたら反対の手で逃すまいと頭を固定された。
緩めた口元にいつもよりも強引に舌が入り込む。息継ぎもそこそこに理性よりも目の前の快感におぼれてしばらく。ようやく離れた鋼くんの瞳は気遣いの色よりも欲に呑まれて熱っぽい。お腹の下の方がきゅっとうずいた私の瞳もきっと同じだろう。
「今から好きにさせてくれる?」
いいよと言うのに、それでも律義に聞いてくれることにじれったさと愛おしさが同時に押し寄せてきたので返事の代わりに手をそっと鋼くんの下半身に伸ばせば小さく体が反応した。ちょっと恨めしそうな、でも嬉しそうな複雑な視線を送るので手はそのままにぴったり隙間がないぐらいに抱き着いた。耳元に向けていいよと吐息混じりに返せばあっという間に背中をベッドに押し付けられる。
その強引さが嬉しいだなんて、ちょっとおかしくて、たまらなく嬉しくて、私は笑いながら、そのまま熱っぽさに身を任せることにした。
(Je te veux)