来馬くんが私の体に覆いかぶさり汗ばんだ体がぺたりと私の肌にくっつく。
行為が終わっても内側はお互い熱を持ったままなのに、触れた肌は冷房で汗が冷えてひんやりとしていた。
外側と内側でちぐはぐだ。内側の熱が外に伝わるように息だけが荒い。耳元で聞こえるその吐息に私は妙に嬉しくて微笑んでしまった。
だって、いつも優しくて穏やかな来馬くんのこの姿は私しか知らないのだ。それはとっても、特別だと思う。
浅い息でぐったりと、私に体重をかけていることに気づく余裕もない来馬くんは私だけのものだ。
誰にも言えない独占欲は心地よく私の心をくすぐっていた。
「来馬くん、ぎゅってして」
気遣われることのない嬉しい重さをしばらく堪能してお願いを口にした。背中に手を添えれば力が抜けていたはずの腕は私のことを大事そうに包んでくれる。
すぐに見せてくれたいつも通りの気遣いに応えたくて、背中に回した手で来馬くんにわかるように抱きしめ返した。するとまだ熱の名残がわかる声で私の名前を呼ぶのでなあに、と返事をする。
「好きだよ」
先ほどねだったけれど恥ずかしそうにうやむやにされてしまった言葉だ。最中に紛れて言うのではなく今このタイミングで言う来馬くんに私の方が好きでいっぱいになる。
たった一言で、私は世界で一番幸せになれる。
「私も好き。大好き」
私は胸の奥から湧く幸せな気持ちに頬を緩ませた。
来馬くんがかわいくてかっこよくて素敵なことが嬉しいけど私以外に見せてないといいと思う。他の人が見て来馬くんのこと好きになられたら困り果ててしまう。
望んだものを返してもらって、幸せだと思うけれど欲は限りがない。少しだけ離れてもらえるよう、回していた手を緩めて肩に触れた。
来馬くんは照れた様子を隠したそうに、でも私の望み通り、ぴたりとくっついていたところから距離を取って顔を見せてくれる。自分でお願いしたのに離れるのも名残惜しいから本当に私はわがままだ。それを来馬くんは許してくれるから私はもっとわがままになってしまう。
「来馬くん、もういっかい言って」
このお願いは躊躇われはすれど断られることはない。断らなくても恥ずかしさで揺れる来馬くんの瞳が心をざわつかせる。
先ほどまでのじんわりと滲む気持ちとは別に心臓が早鐘を鳴らしだしたのに気づかない振りをした。
そんな私のことなんて露知らず、来馬くんは私のお願いをもちろん聞いてくれた。やっぱり好き。大好き。
そうして私ばかりがお願いを言っていたからなのか。
「ちゃん、名前呼んで」
それは唐突だった。掠れた色っぽい声のお願い。
心臓があっという間にドキドキ早鐘を打ち出した。冷房で冷やされていたはずの体が内側から熱くなっていく。気づかない振りなんて意味を成さない。来馬くんの好きは私の心をキラキラにときめかせて、来馬くんの色っぽさは途端に私を俗っぽくさせる。
「お願い」
いつもちゃんのことでいっぱいいっぱいだよと照れくさそうに笑う来馬くんだけど本当は逆だと思う。来馬くんの一挙一動に私の方がよほどたじたじになっている。
「辰也くん」
照れくさくてなかなか呼べない名前をなんとか呼んでみればふわりと嬉しそうに笑ってくれるから、呼んだ私の方がもっともっと幸せな気持ちになってしまう。
なんだって、来馬くんが望むなら、何度だって、来馬くんが望むなら、私にあげられるもの、全部あげたい。
だから私は今の気持ちが精一杯伝わるように名前を呼ぶことにした。
「辰也くん大好き」
(幸福の音)