した後は頭が冴えることが多いからと、彼女を放置して全人類兵士化的な計画に心を砕く男はそのうち蹴られると思う。
 なまじ現実味のある計画だからむやみやたらに邪魔もできない。
 私はてっちゃんを応援したいのだ。
 ただし応援したいこととこの胸の内を渦巻く不満は同時に存在できるものとする。

「てっちゃん、彼女放ったらかしてるとそのうち蹴られるよ」
「今蹴られてる」
「蹴ってない。添えてるだけ」

 邪魔はできないと言っても情事の後だ。一人だけ起き上がってメモを取る彼氏にむかつく私は悪くないはずだ。余韻に浸りたいのはおかしなことでもないと思う。
 つまり頭の出来が良くて脳筋で仕事脳予備軍なてっちゃんが悪い。固い背中に私の足の裏がぴたりとくっついてる。おかげでブランケットから太腿から先が丸見えだ。お行儀は悪いけどてっちゃんしかいないしそれに文句を言う人でもない。そもそも私に背中を向けているので見えていない。
 ボーダーの隊員の一人一人が強くなるための戦力底上げ計画というのは良い考えだ。チーム戦で盛り上がっているとはいえ元々近界への備えで切磋琢磨しているのだ。効率よく戦える人が増えていくのならそれは今前線で戦う私たちやボーダー全体はもちろん、街にとっても良いことだ。良いこと尽くし。
 でもそれと彼女との時間もそこそこに計画のアイディアに現を抜かすのは別問題だ。妬く先が世のためになる計画というのが悔しい。私は悪くないはずなのに。

「てっちゃんの計画で強くなった人なんか私が全部一撃で沈めてやるもん」
「……良い考えが浮かんだんだって。構うから拗ねるな」
「拗ねてない」
「わかったわかった」

 本当にわかってるのか怪しい調子だけどベッドに入って早々、その手が私の体の上で悪さを始める。構うの意味が違う。違わないけど。
 む、と睨んでみても嫌ならやめるぞと自信満々な顔で聞いてくるのでその唇を塞ぎ腕を背中に回す。てっちゃんが口元に意識を取られて油断した瞬間、背中を強めに叩いてやった。

「ってえ!」
「思ったよりいい音出た」
「このやろ」
「ひゃあ」

 良い雰囲気があっという間に台無しだ。てっちゃんは私のお腹のお肉をふにふにとつまんで仕返ししてくる。

「太ったからやめてえ」
「どうせおやつ食いすぎたんだろ」
「なんで知ってるの」
「仁礼とカゲんちで騒ぎながらお好み焼き食ってたらそりゃ痩せないな」
「カゲのとこのお好み焼き美味しいから仕方ないの! てっちゃんだってしょっちゅう行ってるじゃん!」

 ヒカリと美味しいもの屋巡りをするのは仲良くなってから恒例行事だ。ボーダーは人がたくさんいる分グルメ情報も豊富だ。住んでる地域も学校もバラバラなので三門市内のかなりの地域は網羅できる。
 B級でコツコツ任務をこなせばそこそこのバイト料みたいなもんだ。可愛いもの美味しいものに遣うのは自然な流れだった。

「俺は食べたらその分動くからな」
「レイジさんスキーの脳筋め」
「事実だから痛くも痒くもないな」

 てっちゃんから余裕を奪うにはレベルが足りないらしい。ふにふに人のお肉摘んでいた手は気づけば腰のあたりを撫でている。

「一緒に鍛えるか?」
「……考えとく」

 お腹のお肉の引き締めもだけどともすればてっちゃんと一緒にいられる時間が増えるかもしれない。
 そういうことを考えたのは私ばかりてっちゃんのことで頭がいっぱいなような気がして悔しいから口にしない。
 その代わり、引き締まった体を抱きしめた。望み通りこちらを見てくれたてっちゃんに大好き、と伝えた。

「知ってる」

 余裕綽々で笑われるのがこんなに嬉しいんだから恋ってとんでもない。
 さっきまでの面倒な嫉妬など放り出して私は溶けるように微笑み返していた。

「もっと知って」

 返事を聞く気はなかったけどてっちゃんもおしゃべりする気はなくなったらしい。
 現金な私は私のことをまっすぐ見てくるその瞳にもういいやとすべて許して考えるのはやめにした。





(やきもちやき)