野宿の夜、寒さで目が覚めたところ、焚き火の近くで火の番をしてるリオンが小さな声でシャルティエとしゃべっていた。
 その横顔が私たちといるよりも穏やかで、時折表情を変えるものも楽しげなものが多い。
 私たちには電気を浴びせたり怒ったりと忙しそうだし旅の目的も小難しいことだから、リオンは大抵は不機嫌そうだ。だから、たまにこんなやわらかい表情をしているとほっとする。それが私たちに向けられてなくても、リオンはこんな風に笑うのだと心から嬉しくなる。
 私はあいにくシャルティエの声は聞こえないから、リオンが何の話であんな顔をするのかわからない。でも、今までもあったんだろう会話のなかで一回ぐらい私のこと、バカにしててもいいから笑ってくれてたらいいなと思う。私たちとのこの旅が面倒なことばかりじゃないのだと、期待していたい。
 そうじゃないと眉間にしわばかりの人生じゃリオンはおじいさんどころかおじさんになったころには眉間がしわしわになってしまう。
 半分夢の中の頭でぼんやり見つめていたら不意に言葉が途切れて、リオンがこちらを向いた。物音は立てていなかったし、リオンの視界にはいなかったのに。シャルティエが気付いたのかもしれない。
 ぱちりぱちり。まばたきをしていたらため息をつかれた。

「さっさと寝ろ。明日は早いんだ」
「さむいもの」
「……もう少し火の近くに来たらいいだろ」
「リオンがやさしい」

 思わず大きな声を出しかけたんだろう。口を開きかけて、今が夜中と気が付いてリオンはゆっくり息を吐いて大きな音を逃がしたようだった。
 私よりも年下なのに、リオンはずっと大人で、えらいなあと、眠気の混じる頭でぼんやりと考える。

「……風邪でもひいたら迷惑だ」

 ぼんやりとした頭でも響いてくるリオンの言葉は迷惑と言ってるだけで、やっぱりやさしい。むにゃむにゃとやさしいねと口にしていたら顔をしかめられた気がいた。
 重くなってきたまぶたに逆らえずに目を閉じたら次の瞬間もう朝で、毛布が一枚多くなってることに気がついた。その意味するところを知ってへらりと笑っていたらリオンに叩き起こされた。
 いい朝だった。


(夜更けの燈火)