それはうららかなある日の午後の話である。甲板では恒例の修行が行われ、針路は確か。大きな問題もなくその日は過ぎようとしていた。
「おれとしては不思議っつうか気になるわけだ」
「余計な心配だろう」
甲板の隅で道具のチェックをしているペンギンに釣竿を持ったキャスケット。特に珍しい光景ではない。よくある光景なので誰も気にも留めない。
「だって気になるだろう。は仲間としては十分イイ奴だ。強いしなんだかんだ言って打ち解けてるし。でも船長の女となるとまた話は違うだろ」
「そういうのは本人たちの問題だろう」
ペンギンの言うことは道理である。こういうことに他人が首を突っ込むのは野暮な話である。
「まあそうだけどなー。……それにあの二人がもしそういうことになってもおれはいいんだけどな」
「さっきの口ぶりじゃ反対かと思った」
「別にあの二人ならバカみたいに目の前でいちゃついたりはしねえだろ? それなら別にいいんだ」
あくびをしながら海面に視線を向けるキャスケット。ペンギンは何も言わない。意見しないというのは概ね同意見なのだ。ペンギンの反応にキャスケットは笑う。
「ペンギンが文句ないならクルーは問題ないだろ。よし」
「……賭けるつもりか」
「ノってきそうな奴がかなりいてさー。本当。みんなイケる奴ばっかだぜ」
しかし二人はこのときまだ気づいていなかった。端とは言えここが甲板であるということを。
「キャスケット、ペンギン、海に落ちたいんですか」
背後から降って来た声に二人はゆっくりと振り返る。
そこには船首に近いところで修行していたが笑顔で立っていた。その場所から聞こえるはずのない距離だったのだが聞こえてしまったらしい。笑っているのだが目が笑っていない。
「キャスケットの単独犯だ」
「な、ペンギン! 裏切り者!」
「元々裏切る立場でもない」
二人の軽口にはため息をひとつ。呆れた声に諭すような口ぶりだった。
「私は、ローとどうこうなるつもりは現状ありません」
二人が何かを言う前にはまたいつもの定位置に戻って行った。
その後ろ姿を見ながらどちらからともなく二人は顔を見合わせ、そしてほっと安堵の一息をついた。
(聞こえているよ)