力一杯が投げる。それは遠く遠く、どこにいったのかもわからない。放射線を描くというか海に落ちる音すらしなかった。およそありえない遠投ではあったが最早誰も気にしていなかった。
その隣でぼんやりと釣竿を持った人間だけがに目を向けた。その理由もたまたま近くにいたからであり彼女のその異様な遠投についての興味はない。
「いっつも、何投げてんだ?」
「手紙です」
へえと、キャスケットはの方を向いた。話せというポーズだ。は一瞬迷ったらしいが結局はキャスケットの隣に落ち着いた。
「故郷の友人に向けての、手紙です」
「……故郷、か」
「まあ、いまさら戻れるとは思ってませんけど。届くといいなと」
の口から昔のことが出ることはほとんどない。この船に乗る以前は名の売れた賞金稼ぎであったのは周知の事実だがそれ以前のこととなると恐らく誰も知らない。もし知っているのならばそれはこの船の船長だろう。
海を見つめるの横顔はキャスケットの見慣れぬ姿だった。
「海はどこまでも繋がってるから、届くこともあるだろ」
気休めと言えばそれまでだがキャスケットは本気でそう思っていた。海は全てを把握できるほど狭くはない。一生かけても足りないようなそんなところなのだ。どこに繋がっていてもおかしくはない。
「……ありがとうございます」
「別に、思ったことを言っただ……! ! 当たりだ! 手伝え!」
いつもはただの考えごとの時間にしかならないキャスケットの釣りの時間が途端に慌ただしくなった。はもちろんキャスケットの様子に気づいた他の仲間たちがわらわらと寄って来た。
あっと言う間に賑やかになったその場での機嫌は妙に良いままだったらしい。
(ハロー、ハロー、届きますか?)