その日は何が理由だったか宴会だった。そもそも海賊が騒ぐのに大した理由はいらないのでみんな理由が何かは気にもしていない。寄港中なので食料も酒も心配することなくどんどん食べる、飲む。どんちゃん騒ぎである。
は静かに飲みたかったらしく隅へ隅へと行こうとするのだがあいにく酔っ払いたちはそう大人しくはない。やれ飲めやれ食べろと勧めてくる。が今まで潰れたところを見せてなかったからかもしれない。
かなりの量を飲まされたところでひょいとその腕を引かれた。
「よお、随分飲んでるな」
「飲まされてるの間違いです」
そのまま彼の隣に座れば仕方ないと諦めるクルーたち。さすがに船長の前で阿呆のような真似はするつもりがないらしい。がやっと解放されたと喜んでいたが隣の男の笑みは、悪い男のそれだ。
「飲め」
「は?」
「船長の酒が飲めねえか?」
この席も失敗だったのかもしれないと気がついたが既にとき遅し。そそくさと反対隣にいたペンギンが立ち上がっていた。
「ペンギンあなた!」
「すまん」
短い謝罪は人身御供にされたにはたまったものではない。思わず伸ばした手は届くことなくパタリと落ちた。追うのをやめたクルーもこの船長の様子を察してだったのかもしれない。ため息。しかしなみなみと注がれた杯を飲まねば隣の男は満足しないだろう。
は覚悟を決めぐっとあおった。遠くからは感心する声。
「ほお」
勧めた本人も驚いている。飲んだはかなり苦い顔だった。
「これ、からっ!」
焼けるような喉。カッと熱くなる胸。はかなりイケる口だが今まで飲まされた分にプラスしてこの酒はきつかった。
「おれの故郷の酒だ」
「……ああ、そういえば船長さんたちは北の海出身でしたよね。あー、からい」
水を口にすれば野次が飛んだ。男らしくいけ、とかなんとか。は一応れっきとした女のだが彼らにそんなことは関係ないらしい。文句でも言ってやろうかとがそちらに視線を向けたときだ。
「……なあ」
「はい?」
彼自身も大分酒が回っているのだろう。しっかりとした様子に見えたがが飲んだ酒がちらりと見ただけでも二瓶は転がっている。からすれば今こうしてまともに会話が出来ていることが驚嘆だった。
「船長さんってのは、随分とよそよそしいな」
小さな声だった。隣にいたでさえかろうじて聞こえた程度だ。他の誰にも聞こえなかっただろう。
その言葉にが珍しくにっこり笑う。彼が思わずかたまった。その瞬間、その場の空気が凍りついた。
「水もしたたるイイ男ですね」
「てめえ……」
ぼとぼとと頭上から降る水に彼の酔いは一気に冷めたらしい。目が据わっている。しかしその程度で退くでもない。
「私、てめぇでもお前でもありませんから」
そう言って颯爽と宴会場を去ったの背に多くの人間は何か恐ろしいものを感じたらしい。
残された船長はただ一人、苦い顔。
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