昼食後のまどろむような時間、その時間はには話しかけないのが暗黙のルールである。
船首の一画を陣取り彼女は瞑想したり一人で武術の型を始めたり、船員にはわからない動作をすることがある。そのときのはいつもの気だるげな空気を微塵も感じさせない。ピンと張りつめた、誰にも近付けない空気を纏っている。
修行だと言ってその空気を出すは凛としている。見ている側も思わず背筋を伸ばしてしまうほどである。それにつられる様に仕事のない船員もこの時間は修業をするようになった。
中にはに教わったという瞑想にふける者もいる。これが案外人気でハマる人はハマっている。
がしていることの真意が分かる人はいないのだが彼らは組み手を申し出れば快諾してくれ共に同じように瞑想にふけることもあった。
そんな空気を壊すのは少し小腹が空いてきた頃である。
「!」
「! 今行きます」
を呼ぶ声がこの時間のおしまいである。は食堂に毎日おやつをもらいに行く。食堂へと向かうの後ろは同じように修行していた男たちがぞろぞろと続く。
「今日なんだろうな」
「おれコックがあんなに菓子作るのうまいののおかげで知った」
「んー、はちみつのにおい!」
ざわざわ。好き勝手にしゃべる男たちに囲まれながらは「今日ははちみつレモンのクッキー」とぽつり、呟いた。瞬く間に広まる今日のおやつメニュー。
「、うれしそう」
隣にやってきたベポにはこっそりと教えた。
「はちみつレモン、好きなんです」
そのあとコックがその情報をどこからか手に入れたらしくおやつにしばしばはちみつレモンのものが出ることになる。
(はちみつレモン味)