小さなあくびをひとつ。体をうんと伸ばし目をパチリ。
 見知らぬ天井が目に入る。ざわざわと人の声が遠くに聞こえた。ここ最近遠ざかっていた陸での感覚だった。

「目を覚ましたか」
「……、……ああ、おはようございます、ドレーク」

 そこまで言っては首を傾げた。あたたかな温もり、やわらかく包まれている状態。視界にはソファに腰掛けているドレーク。

「すみません、あなたのベッドを占領してしまいました」
「好きでしたことだ」

 昨夜は潰れた船員たちの世話でドレークもも忙しかった。放っておいてもよかったのだが店主が困り顔だったので二人ともなんとかしようと昨夜は珍しく働いた。
 普段なら二人ともその辺に放っておくだろうがその店を気に入った。だから店主に気遣ったのだ。
 なんとか全員を適当に片づけたあとは疲れたとソファで横になった。ドレークがいくらか文句を言っていたがは無視しそのまま眠りの世界と挨拶をかわしたのである。

「朝食、食べましたか?」
「まだだ。もう昼食みたいなものだが」
「まあいいじゃないですか。ご一緒させてください」

 なんとなく、二人で宿の一階に下りた。なんとなく、一緒に朝食を食べる。ドレーク海賊団の船員とあいさつをする。昨晩よりも打ち解けた態度を見せる彼らには苦笑いだ。

「完全に誤解されましたね」
「……」

 苦い顔をしたドレークをは面白そうに見ている。
 以前、彼がまだ少将であった頃からその表情はあまり変化することがない。それが、今珍しくも崩れているのだ。は笑みを浮かべて食後のコーヒーを口にしている。

「そもそもお前は死の外科医のところのクルーだろう」

 ため息交じりにドレークが呟けばからあっさりと肯定が返ってきた。
 ドレークとは単に賞金稼ぎと海軍という利害が一致した相手というだけだった。彼女が一時期荒稼ぎした海域がたまたま彼の担当海域であったというだけである。

「けど、ローもかわいいんですよ。船にあるものは全て自分のものという信条らしくて」
「……それは、人もか」
「そうですね。きっとドレークと同じ部屋で一夜過ごしたと言ったら面白いことになると思いますよ」
「……」

 の表現に間違ったところは何一つないのだが誤解するように仕向けた発言である。
 荒れるトラファルガー・ローと巻き込まれるⅩ・ドレークが見たいだけだろう。

「痴話喧嘩がしたいならヨソでやれ」
「いやですよ、痴話喧嘩なんて。今の距離が楽で良いんですから。冗談でしょう」

 年頃の女性にしては色気のない言葉だった。
 コーヒーを飲みほしては立ちあがる。ドレークはその姿を見上げる形になる。

「次は、"新世界"ですかね」
「シャボンディ諸島かもな」

 どちらからともなく笑みを浮かべた。

「また会いましょう、ドレーク」
「今度は不用意に入るなよ」

 投げかけられた言葉の意味にはクスリと笑みをこぼしながら歩き始めた。かと思えば通りざまにドレークの耳元に唇を寄せた。

「……魔女め」

 苦々しげに呟かれた言葉の意味は、二人のみが知る。








「あなたにしては悩ましげなため息で色っぽかったですよ」


(なんちゃってランデヴー)