が停船中に一人で歩くのは珍しいことではない。買い物は男がついてきても仕方のないところが多いし夜は夜ではある意味お邪魔虫である。もちろん、も子どもではないので何気なく席を外し他の店で一人飲むこともあった。
 その日も彼らがそういった通りの店に飲みに行く流れになったのでそそくさと抜け出した。そういうときは必ずペンギンに一言告げていく。なぜペンギンなのかといえばこの中で一番常識的だからだった。
 前回の冬島とは打って変わった夏島はクルーの気持ちを高揚させた。住民の露出度は高い。冬島は体に馴染んだ土地だった為にのびのび生き生きとしていたがきれい所がその白い肌を惜しげもなく晒しているのならば男なら夏島を選ぶだろう。
 現に船長はログが溜まる期間がかなり長いというのにそれよりも長い滞在日数を告げた。もちろん、そこには船のメンテナンスやその他諸々の事情も鑑みての日数なのだろうがこの夏島の美人の多さも要因の一つではあるだろう。
 男を煽るような夏島、そしてハートの海賊団はどこもかしこも若い男ばかりである。はため息。
 一団から抜けなるべくそういった空気の薄いところへと足をのばし目に留まった店に入る。上陸中なら船に帰ってこずとも誰もたいして心配などしないのがこの船の良いところだった。

「あ、お客さん。悪いね、今日は貸し切りみたいなもんなんだよ」

 ドアを開けた瞬間に程よい賑やかさを感じたと思った時だった。申し訳なさそうに一人の店員が近寄って来た。
 店内はの慣れた空気が漂っている。騒ぎすぎずくだけた空気はの心地良い温度だが一般人には恐ろしいものなのかもしれない。

「ああ、海賊ですか」
「ええ。それも……フダツキですよ」

 こそこそと話しかけてきた店員はそう言って店の奥に座る人物を指差した。もそちらに目を移す。

「Ⅹ・ドレーク?」
「え?」

 その呟きは大きなものではなかったがこの店内ではよく響いた。この、ドレーク海賊団だらけの酒場では。

「……不死身の魔女か」

 それは店内奥、店員が指差したその人物から発せられたものだった。フダツキと、呼ばれた相手。その相手に呼ばれたは苦い顔だ。

「不死身でないと、何度言ったら海軍はわかってくれますかね」
「おれの預かり知らぬことだな」
「ごもっとも。あ、ここのお酒美味しいですか?」
「上々だ」
「じゃあ相席させてください」

 ここまでテンポよく会話したかと思うとはすたすたと歩き一人で飲んでいたドレークの正面の椅子にすっと腰掛けた。
 そこまでの間口を挟めた者はいない。

「船長、彼女は」

 ドレークの対応から船員のに対する態度も悪いものではない。
 ドレークは自ら杯に酒を注ぎに手渡しながら口を開く。

「不死身の魔女。賞金稼ぎから海賊になった女だ」
「ドレーク少将も今や立派なフダツキ。昔が懐かしいですね」
「そういうお前も似たようなものだろう、魔女」

 ドレークの言葉には笑いながら杯を受け取り軽く呷る。魔女という呼び名は久しく耳にしていなかった。

「億超えの方に言われるほどじゃないですから」

 海軍本部で少将という地位にあった男だ。海賊となった時点でかなりの高額をつけられていた。
 微笑むと表情をあまり変えることなく相対するドレーク。周りは二人に興味津津だったが二人の空気がそれを許さない。
 徐々に減って行く視線を感じながらは形だけではない微笑みを見せた。

「ドレーク少将」
「元、だ。ドレークでいい」

 それは船員にとっては驚くべきことだったが二人は気にも留めない。同じ酒を飲み交わす。

「ドレーク、あのときも夏でした」
「……ああ、そうだったな」

 お互い、何か思うところがあるのだろう。言葉なくただお互いにしかわからぬ空気を醸し出していた。

「今日こそ、決着をつけましょう」
「いいだろう」




 いつの日か行われた耐久飲み比べ大会リベンジ戦は結局他の船員のほとんどが潰れてしまったことによりうやむやになった。


(2度目の夏)