辿り着いた島は冬島であたり一面雪だらけだった。あますところなく雪、雪、雪、では少し身を震わせたのだがクルーのほとんどは平気そうだった。むしろ嬉しそうな者が多い。手慣れた様子で船の雪を海に落としている。
それを見ながらも手伝うのだが今回は要領が悪いということで大人しく上陸準備に回った。この場合は買い出しのチェックなどのいつもの上陸と変わらない準備なのであっと言う間にしたくは整った。
「初日外出組は甲板集合ー」
廊下から聞こえてきた声には荷物を持ち寒空の下へとでた。
甲板でローによる簡単な注意があった。今回は街を上陸前に確認できているので要は羽目を外しすぎるなという旨だった。無駄に事を構えることをこの船長は良しとしない。
「んじゃあ解散だ」
大きくはないが小さくもない声のあとには雄叫びのようなものが響きほとんどが走るように船外へと出て言った。
「もか」
「はい。いろいろと要り様なので」
基本的にはその強さや無精なところばかり注目されるがれっきとした女である。男だらけの船ではそれなりに苦労もあるのだ。本人がおくびにも出さないため多くは気付かないが。
「……冬島は初めてだったか」
「いえ。でも慣れているわけではないですね」
にしては珍しく自信のなさそうな答えだった。大抵はそつなくこなすにも苦手なこともあるのだと、他の船員なら驚いただろう。
ローはそんなを見てふむと頷いた。
「付き合ってやろうか」
「対価が法外なものでなければ」
小さな舌打ちをはなかったことにした。この場合彼が何を望んでいたのかを考えてはいけない。それが賢い選択と言うものである。
何を望むのかはにはわからないままだがローは軽やかな足取りで船を降りた。
「行くぞ」
「……はあ」
なぜこんなにも偉そうなんだという呟きはローには届かなかったらしく白の景色に溶け込んでいく背をは追った。
「……ロー!」
「あ?」
息を切らしながら叫べば当の本人は何だと、ようやく振り向いた。は頬を赤らめてローを睨んでいる。
ローはそれを見た瞬間にやりと笑って道を引き返してきた。
「どうした」
「冬国育ちと同じスピードで歩けません」
「……そうか」
この返事は同情でも心配でもない。目は楽しげで今に対して何が出来るかを考えていた。
はいやいやローに視線を向けていたのだがそうしたら目の前に手が現れた。
「……なんですか」
「お前に合わせてたら日が暮れるだろうが」
「対価は」
ギブアンドテイクがの基本である。特にローとのやり取りはお遊び感覚でいつもこんな風なやりとりばかりしている。
「良い酒」
「高いです」
「グラス一杯」
「乗った」
その瞬間ぐらりと引っ張られる感覚には態勢を整える。
「そこはバランス崩してよりかかるとこだろ」
「誰がローとラブロマンスするといいましたか」
そこから二人の話はセオリーではどうだこうだという不毛な言い争いに入るのだがその手はしっかり繋がれたままだった。
(冬の帰り道)