村上鋼/WT


「大丈夫?」

 ベッドの中、ぼーっとする私の顔に貼り付いた髪を鋼くんは指でそっと後ろに流してくれる。そして今日もいつもと同じように大丈夫か聞いてくれた。
 先程までの熱のこもっていた瞳が、今は私のことが心配だって言わなくても伝わってくる。それはすごく嬉しくて何度でも私の心をくすぐるけど、今日は求められてる言葉を答える気はない。

「大丈夫、じゃない」
「えっ」

 そんなはずは、と焦る姿にやっぱりと気づかれない程度にため息をついた。贅沢なのかもしれないけど、譲るわけにはいかない。

「強化睡眠能力をこういう時に応用しない」
「で、でも」

 鋼くんは優しい。とっても。気遣いもできるし彼のサイドエフェクトによって痛がる強さで触れることは一度してしまえば次はしてこない。逆に気持ち良い反応がわかればそこは絶対に外さない。そういう意味で鋼くんの大丈夫かという問いかけは十分すぎる程で、文句がないと言えば間違いでもない。
 生身でも鍛えている鋼くんの体は私のふやふやな体と違って筋肉がついている。マッチョという程がっちりではなくてもちょっとずつたくましくなっていると思う。鋼くんは努力家なのだ。でも、何でも素直に努力しすぎだと思う。

「鋼くんは優しいんだよ」
「うん?」

 そして優しすぎるとも言う。

「だから、その」
「うん」
「私に気を遣ってくれるのは嬉しいけど私だって鋼くんがその、えっと」
「?」

 わかってくれないことがもどかしく、わかっていないことがかわいい。かわいけどわかってほしい。そう思って見つめてみても鋼くんは気遣わし気に私を見つめてくるだけだ。ぐっとお腹に力を入れ、ええいままよと口を開く。

「私だけじゃなくて鋼くんが気持ちよくなって欲しい」
「え」

 かっと熱が出たみたいに鋼くんの頬が赤くなっていく。私も自分の顔が熱くなってるのを感じながら、口にしてしまったのだからと続ける。

「鋼くんは私のこと見てすぐわかるかもしれないけど、鋼くんのこと私にちゃんと言って欲しい。鋼くんみたいにすぐ覚えられるわけじゃないけどがんばるから」
「うん」
「鋼くんの好きにしていいんだよ」

 真っ赤になっている鋼くんの頬に手を添える。私の手のひらよりも熱くなった頬はすべすべだ。にきびとかできたことなさそうで羨ましい。お菓子控えようかな。そんなこと考えながら頬と、指先で耳朶もいじれば鋼くんは目を泳がせている。けど、瞳が気遣うだけのそれから期待するようなものも入っている。

「好きにしていいって、本当に?」
「嘘なんかつかないよ」

 じゃあ、と言うと今度は鋼くんが私の頬に手を添え顔を近づけてくる。あっという間に塞がれ、反射的に逃げかけたら反対の手で逃すまいと頭を固定された。
 緩めた口元にいつもよりも強引に舌が入り込む。息継ぎもそこそこに理性よりも目の前の快感におぼれてしばらく。ようやく離れた鋼くんの瞳は気遣いの色よりも欲に呑まれて熱っぽい。お腹の奥がきゅっとうずいた私の瞳もきっと同じだろう。

「今から好きにさせてくれる?」

 いいよと言うのに、それでも律義に聞いてくれることにじれったさと愛おしさが同時に押し寄せてきたので返事の代わりに手をそっと鋼くんの下半身に伸ばせば小さく体が反応した。ちょっと恨めしそうな視線を送るのでぴったり隙間がないぐらいに抱き着いて、耳元でいいよと吐息混じりに返せばあっという間に押し倒された。それが嬉しいだなんて、ちょっとおかしくて笑いながら、そのまま熱っぽさに身を任せることにした。