風間蒼也/WT



 壁に手を当て浅い息を繰り返す。白い壁と己の手がまず目に入る。下に視線を落とせば適当に投げ出された鞄と足首に引っかかったままの下着が見えた。視界の右端では脱ぎ捨てられた靴が哀れにも横たわっている。ブラジャーは半分上にずらされたままだがたくし上げられていたスカートはふわりと重力に従い元通り。中途半端に服の乱れた私は性急な欲求の残骸みたいな玄関で中から異物が引き抜かれた余韻をぼんやりと味わっていた。
 そんな、まだ意識も体も判然としない中だというのに後ろから腕が伸び、私のお腹を捉えて引き寄せる。重心が後ろにずれ、首筋に自分以外の体温とざらりとした湿った感覚を感じて体が強張った。

「風間」
「何だ」
「次はさすがにベッドがいい、というかシャワー浴びさせてよ。その前に服」

 首筋から顔を上げる風間の動きで舐められた部分に一瞬風を感じる。汗でしょっぱいんじゃないのかなと思ったけど後の祭りだ。

「ベッドはいいが、シャワーはどうせ後で浴びるだろ」

 文句を言うために振り向こうとすればその動きを手伝うようにそのままくるりと反転させられきゅっと軽く抱きしめられた。さっきまでの性急さはどこにいったのかと思う程優しい力で、開きかけた口を閉じてしまう。
 もちろんそれを逃す風間ではない。我に返り再び反論しようとする私の唇をきれいに塞いでしまう。
 壁に追い詰めるように迫り、口よりも雄弁な舌を絡ませてくる。そうなれば私の脳みそはあっという間に蕩けてしまうので、先ほどまでの言いかけた言葉なんて放り出し、しがみつくように腕をその背中に回すのだった。