迅悠一/WT



 服も着ず、なんとなく横に向き合って相手を見合うようにしていたけれど真正面から目を合わせられなくて喉元あたりを見つめていた。

「悠一」

 名前を呼ばれれば視線を目元に向けるしかない。しっかりとこちらを見つめる瞳と目が合った。

「今、君の目の前にいるのは誰?」

 ニヤリと笑う姿に今目の前の相手を見ていないことがバレていたのを知る。この人はとても勘が鋭いのだ。責めるわけでもなく、からかうような瞳がこちらを見ろと挑発する。その表情に煽情的というよりも勇ましさを感じてしまう。

「ゴメン」
「謝罪よりも行動で誠意と愛を示してよ」

 からかいを多分に含めた声色に気負うところなんてどこにもない。歌うように、簡単だと言わんばかりに望まれればそれに応える以外にない。
 その手を取り、指先に口づける。

「好きだよ」
「それだけ?」

 ご不満な相手の手のひらにも口づけ、そこからおでこに、眦に、頬に、唇に、ゆっくりと触れては離れていく。

「大好き」
「もっと」

 こっちの躊躇いも照れくささもお見通しなんだろう。まだ言えるでしょう、と瞳が雄弁に語っている。
 そのくせ、おれがどんな未来を選んでも彼女はいつだって楽しんで笑って選択を受け入れる。これ以上を躊躇っても、躊躇わなくても、彼女は笑っている。
 それなら、とおれは彼女が一番楽しそうに笑う未来のために言葉を選びその体を引き寄せることにした。