やばいと、全速力で駆け抜ける。時計とにらめっこだ。ぎりぎり、だろう。あせる。あせる。
焦ってもいきなり己の足が超人的に速くなるわけではない。今日捕まるとおそらく生活指導だ。
「お嬢さん、乗ってくー?」
突然の軽口に乗るまでもなくその自転車が目の前に止まった途端後ろに飛び乗る。自転車はその瞬間を間違えることなくすぐさま進みだす。徒歩ならば危ういが自転車なら遅刻することのない距離だ。
「高尾、助かった!」
「今回捕まるとまずい?」
「指導室」
「そりゃはりきらないと」
自転車のスピードが本の少し上がる。いつもより景色が抜けていくのが早い。
「高尾はやい!」
「自転車だもん」
朝からわあわあと騒がしい自転車に同じ制服の人間から視線をむけられる。中には知った顔もあった。その人たちを追い抜くと校門が見えてきた。少しして、彼女は校門に立つ人影と目があった。
「あ」
「どうしたの」
「二人乗り」
「あ」
漫画ならここで背中に不穏な音を響かせているに違いない。それなのに笑顔だけが妙に朝から晴れやかな生活指導の教師が待ち構えている。
「慌てすぎて抜かった」
「そもそも遅刻しなきゃいーんだからな?」
「うるさい。高尾、私と一緒に地獄いきよろしく」
「そんな笑顔でいわれちゃあなあ」
彼はお供しますと笑った。
(駆け抜ける世界)