「おはよー」
のそのそ。
その表現がぴったり当てはまる動作で居間に現れたのは巨人だった。
紫原家は元々長身の家系で、父親も母親も平均より背が高い。姉のも女性にしては高く、175センチある。
その姉が寝ぼけ眼でやってきた弟に鋭く目を光らせた。
「敦、あんた背伸びた?」
「んー、伸びたかも」
「この間採寸したばっかだってのに!」
朝から姉の嘆きは激しいが誰一人として気に留めない。嘆かれた本人ですらそうだねえとのんびり食卓のご飯が何かを確認するのに夢中だ。両親はそれぞれ朝の支度で忙しい。
「今度部活ない日にまた採寸するからね」
「ちんは好きだねえ」
「悔しいんだっつーの!」
が採寸しても採寸しても気づけば伸びたあ、とのん気にしている弟なのだ。
せっかくの長身だ。見目も悪くはない。立つだけで目を惹く要素がある人間ならば着飾って損はない。
すぐにつんつるてんになる弟を好き勝手にいじるのは幼い頃からの楽しみだった。
趣味が高じて服飾科のある学校に進んだは今も弟いじりが趣味だ。
「新発売のお菓子買ってあげるから」
「ちんわかってる」
何年姉弟をやってるのよ、と目の前のトーストの最後のひとかけらをひょいと口にいれて飲み込む。
「まあ、部活そこそこにやってきな」
「んー、赤ちんが言うからやるよー」
実にどうでもよさそうな返事だったがはうん、と入れ替わりに座る弟の頭を撫で付ける。寝癖のついた髪がさらにくしゃくしゃだ。
彼女の弟がこんなに長い間続いたものはそうそうないのだが、弟はその意味に気づいていないらしい。
「次はどんな服がいい?」
「お菓子を入れるポケットがあるやつ」
「それは前提」
「んー」
次の言葉もわかっていたもののは黙って言葉を待った。
「バスケしやすい服」
「はいはい」
わかっていたその言葉に姉は笑って次の服を考える。
(お姉ちゃんと一緒)