「テツヤ、みーつけた」
それは家族を含めて他の誰にも勝る彼女の特技だった。
「見つかっちゃいました」
階段下の死角になりやすいその隙間に、もう小さくはない体を滑り込ませた彼女の弟は驚くこともなく、見つかったとその隙間からするりと出てきた。
にとって弟のテツヤを見つけることは何の難しさもない、小さい頃からの役割だった。
「テツヤ昔はかくれんぼ大好きだったけどまた今になってどうしたの?」
弟を家の中で捜すことはお互いが大きくなるにつれなくなってきたのだが今日は久々だった。
両親は用事がありまだ家にはおらず、が帰ってきたときには弟の靴があるのに姿が見当たらない状態だった。
その瞬間にはそれが昔からのかくれんぼだと気づき、荷物を部屋に置くと制服から着替える間もなくよしと意気込んで弟を捜し始めた。
隠れられる場所は限られているのであとはがいかに素早く見つけられるかという自己記録の更新だ。
今日の弟なら一体どこに隠れるだろうか。最近の様子、昨日今日でなにかなかったか、は考える。
「ちゃんはやっぱりすぐに見つけてくれるって、安心したかったんだと思います」
もうよりも大きくなった弟が上から照れくさそうに笑いかけてくる。
最近は部活の話をあまりしなくなった。それでもその手は部屋にあるバスケットボールを触り続けるし部活の道具の手入れは欠かさない。
小さい頃にちゃんちゃんと後ろをついてきた姿とはもう違うし見上げなければいけなくても、静かにちゃんと名前を呼んで笑う顔は変わらない。
「そっか。テツヤ、今日夜は二人だからご飯作るよ」
「……ゆでたまご、むきます」
「うん、よろしく」
料理を手伝うことの少ない弟からの精一杯の申し出に姉は笑って頷いた。
(お姉ちゃんと一緒)