蝉が場所を問わずあちらこちらで鳴き、かすかな日陰の下でもその声を聞くと彼女は思わず顔をしかめた。外のうだるような暑さのせいなのだが蝉がそれを助長している気がしてならなかった。そしてその暑さによる不快を、目の前で動き回る相手にぶつける。
 
「アイドルの、どこがいいんだっつーの」

 視線の先の宮地は、今日もコートでボールを追いかけている。

「うっせえ! 好きで悪いか!」

 大声を出したわけではなかったが、シュートフォームの時に声を出したためか聞こえたらしい。綺麗な線を描いてボールはゴールの中に吸い込まれ、落ちた。
 ボールを拾いに行った後の宮地にじろりと睨まれるが彼女はそのまま知らんぷりだ。片手のアイスをなめた。この暑さにバニラ味は後味がべたべたする。失敗したなと顔をしかめれば盛大に舌打ちをされる。宮地に対してだと思われたらしい。ふんと鼻を鳴らしながらも視線は相変わらずコートの中だった。

 お盆の間だけの束の間の休みも彼は練習を選んだ。そしてその度ドリンク片手に暑い中日陰で練習を見ることを彼女は続けてきた。一人で暑い中練習して倒れちゃ宮地のお母さんも気が気じゃないだろうという理由で。
 練習だけじゃない。お互いに文句を言いつ言われつをするのに何度もライブに一緒に行った。男一人じゃなんだろうという理由で。最近では定番曲の振りはほぼ完璧だ。

「あー! マミリンかわいい!!!!
「てめえもアイドル好きだろうが!!!!」
「好きだよ悪いかばああああか!!!! 好きじゃなきゃライブ行かないっつーの!!! 好きじゃなきゃこんなところまで付き合ってないっつーの!!」

 今度はマミリンのセンターが見たい!
 叫ぶ彼女に宮地ははん、こっちがセンターだなと余裕めいた笑みでもう一度シュートを決めた。
 
「それに、好きなのぐらい知ってる」
「うるせえ!」

 叫べば宮地はこの日一番の大笑い。

(理由付けは簡単)