日に日に寒さが増していく。そろそろ手袋を用意しないとなと今日も駅のホームで電車を待つ。出勤前の時間はぼんやりと目の前の景色を見て、そして手元の携帯に視線を落とす。
「あの」
「はい?」
 くるり。振り返れば地味な男の子。高校生ぐらいだろうか。
「落としませんでしたか?」
「え、あ。本当」
 携帯を出すときにハンカチを落としたらしい。あら。
「ありがとうございます」
「いえ」
 会話はそこで終わったのだけど会社に行きふとハンカチを見ればなにか挟まっていて、それがルーズリーフに書かれたメモ書きだったものだから開いてみる。思わずまじましま見たあと、好きですと、電話番号もメールアドレスもないその素朴なラブレターにその日一日胸一杯で過ごした。

(恋文)