最初、彼女はただ笠松をからかおうとしていた。
 ただそれが気づけばこのやろう、と反逆を受けて羽交い締めみたいなことになっており、わあわあ叫びながら彼女は今ギブアップ宣言をしていた。
「ごめん! ごめんもうしません!」
「そういって何回目だ」
「本当!」
 だから許してーと苦しくて笑い混じりだった彼女を捕まえていた腕が気づけば緩んでいた。へ、と気づけば後ろから抱き締められているような形になっていて、途端に言葉が出なくなる。
「な」
 次の瞬間に今度は頭に軽い衝撃。ぽんぽんと、大きな手が乗ってくる。
「最近ちょっと疲れてたろ。おつかれさん」
 いつもよりもゆっくりとやわらかいトーンで彼女は途端に顔が熱くなるのを感じたが幸い相手は背中越しだ。顔が戻るまでは振り向けないと、しばらくうつむく彼女の背中でくすくすと時おり笑い声が聞こえた。

(たまには甘えて)