「教主! 西で風雷警報が!」
「教主! 南で宝貝警報が!」
「教主! 東でさんが暴れてます!被害は甚大です!」
世界の平和が戻ってきたからといって仙人界が慎ましやかに過ごす者ばかりかといえばそうではない。気がつけば仙道たちのまとめ役として働く楊ゼンにとってこの報告は日常茶飯事だ。
風雷はおそらく雷震子で、宝貝はナタク、最後の報告に至っては固有名詞が普通に出てきていた。
「やり過ごせるのはどこだい?」
「西はおそらく突発的なものなのでその場で対処しております! 場合により増員が必要です」
「南は止められる人物がいません! しかし太乙様がシェルターにこもっているので十数分は持ちます!」
「さんは無理です! 第一陣が決壊しました! もういい加減にしてください教主~」
どこの戦場かと疑う忙しさである。
まあ楊ゼンにとってはここは以前とは違う意味で厳しい戦場である。本物の嵐は来ないが人為的災害は山のようにあるのだった。
できれば日に三件も問題を持ち込まないで欲しいが三件目に関しては憂さ晴らしでもしているのだろうと理由の検討がついてしまった。彼にその暴動の原因は少なからずあるだろう。なにせ彼女とここ数日どころかひと月以上ろくに顔を合わせていない。
「仕方ない。先にを止めに行くか。それからナタクかな。まったく。」
の自称恋人他称旦那が立ち上がった。
彼女が暴れる前に時間を取ればいいのだろうが楊ゼンは仙道全体の取りまとめに忙しければ彼女は彼女で現場でストレス発散兼問題を起こす仙道たちを諫めるのに忙しい。人間と妖怪どちらの仙道からも一目置かれて立ち回ることができ、趣味に走らない者は変わり者の多いこの中では貴重なのだ。彼女自身もわかっているから日々会えなくても走り回っている。ただそれが許容量を超えると彼女自身が問題児となるだけだ。そのデメリットは楊ゼンかなだめることでしかおさまらないがそれでおさまるのだからある意味簡単である。そしてそう思うから毎回ボコボコに殴られるのだがお互い織り込み済みの面倒な連れ合い、というのが周囲の感想である。
彼の仕事はまだまだ山のように残っている。机に残る処理の済んでいない書類たちをチラリと見て、楊ゼンは歩き出した。
今日は戻ってこられないかもしれない。せめて無傷でいよう。そう思いながらも結局顔を大きく腫らして次の日働いている姿が見られたとかどうとか。
(犬も食べない)