その日は土曜日でホグズミード行きが許されている日だった。
 はエディとダンの三人で出かけたのだが昼食を終えた後に自由行動を取ることにした。二人っきりにさせてあげたかったしは少しやりたいことがあったのだ。

「あれ、
「あれ、ジェームズ・ポッターとリーマス」

 まだ冬の寒さが残るホグズミードを歩くにはローブとマフラーはかかせない。まあ休日ということもあって私服を着ている生徒ばかりだ。女の子はここぞとばかりに目一杯お洒落をして男の子も彼女の前でいいところを見せようとしている。
 ホグズミードに彼らがいるのはおかしくない。多くの生徒はホグズミードには毎回のように行っている。ただはどうして二人がここにいるかがわからなかった。なにしろここはチョコレート専門店だ。
 ただその疑問を口にする前に大げさに驚く声がしたからそちらを見るしかなかった。

「リーマス!きみいつの間にクイーンのナイトとお近づきになったんだい!?あ、一昨日の魔法薬学でか!」
「ジェームズ、大げさだよ」
「…ナイト?」

 ああ、と目を輝かせる彼はキングと言うより悪戯小僧という方がピッタリだった。小さな子どものように無邪気でそしてそれゆえに残酷なのだ。彼はいつだってヒーロー。小さな子どものような行動も、見栄を張った言葉も、キラキラ輝く世界にあるけれど時折残酷さを帯びる。例えばセブルス・スネイプとの確執のときだ。
 でも今の彼は単純な好奇心のみを瞳に宿らせてずいずいとに近づいてきた。

「クイーンの傍にいて彼女を守るナイト。きみに浮いた噂の一つも流れないから一部ではそう呼ばれてるんだよ、嬢。僕のことはジェームズと呼んで欲しいな」
で良いよ。嬢、なんて気恥ずかしいから。…けどナイトとは思わなかった。そっちがキングのナイトって呼ばれているのは知ってたけど」

 人間何でも絡ませたがるものだ。がクイーンのナイトなら当然リーマスはキングのナイトだ。シリウス・ブラックはプリンス。残念ながら噂好きの女子はピーター・ペティグリューには構ってくれない。
 かごいっぱいのチョコレートをカウンターに運びながらリーマスのかごをチラリと見る。そこにはの三倍の量のチョコレートがぎゅうぎゅう詰めになっている。

「…全部リーマスが食べるの?」
「そうとも!こいつは女の子も驚くぐらいの甘党でね。ホグズミードに来たら必ずお菓子の買いだめをするんだ」

 そういえばグリフィンドールのリーマス・ルーピンは甘党で有名だった。それをは今更ながらに思い出す。しかしここまでの甘党とは想像しておらず思わずチョコレートの山に目がいった。
 からかうようなジェームズの態度にリーマスは苦笑いを浮かべながらもいつものことらしく軽く流す。

「良いじゃないか、僕は好きなんだから。…はいつもここで買うの?」
「いろんなお菓子屋さんで少しずつ買うの。それから好きなものをちょっとずつ入れ物に詰めると食べやすいんだ。夜のおしゃべりのお供にも便利なの」

 女の子は大変なんだねとジェームズは苦笑い。まあ大変そうに見えるかもしれないがそれが楽しいのだ。真夜中の話はいつもとは違う雰囲気でいつもとは違う話がふとこぼれてくる。そういう時間が女の子にとっての醍醐味でもある。
 結局会計を済ませた後もなんとなく三人で一緒に行動することになった。いつも一緒にいる他の三人は今日は学校に残っているという。一人は風邪で寝込み課題が残って泣きつかれて二人で解いているらしい。

「エディは?」
「ダンと楽しくカフェにでも入ってると思うよ。二人はこれからどうするの?」
「買い物は済ませたから帰っても良いんだけど…。きみは何か予定でもある?」

 そう言うとはマダム・ロスメルタのところに行くと言う。バタービールを飲みに行くのかというジェームズの問いににっこり笑って気になるなら一緒に行こうと誘った。
 お菓子は自分の為のものだったがはもう一つ紙袋を抱えていた。
 三年生でホグズミードに行くことを許されてからときどきはマダムのところに遊びに行く。バタービールを飲みに行くこともあるが一人になったときは紙袋を持参して行く。

「マダム、こんにちは!」
「あら、。今日は両手に花ね」
「マダム、僕たち花かい?」
「可愛らしいっていう点ではわたしにはお花に見えるわよ。…、今日はどうするの?」

 他の客を相手しながらもマダムは器用にたちと会話を交わしている。
 は慣れた足取りで店の一番奥の広いスペースを取っているテーブルに向かう。

「せっかくだからバタービールをもらっておこうかな」
「わかったわ。ベルならすぐ来るだろうから相手してあげてね」
「もちろん。今日もベルにお土産買ってきたの」

 あらありがとう、とマダムは笑顔でまた接客に戻る。はこっち、と荷物を置いてその隣の椅子に座る。ジェームズとリーマスは向かい側に二人並んだ。
 寒い季節ということもあり店は生徒だけでなく住民たちもあたたかなバタービールを求めて、あるいはマダムの明るい笑顔を求めて足を運んでいる。活気溢れる空気に満ちていた。

「ねえ、ベルって?」
「あ、来た」

 は椅子から降りるとやって来たベルを抱きしめる。ふわふわとした感覚が腕の中にある。
 ひとしきり感触を楽しんだはベルと戯れながらも二人に紹介する。

「マダムの犬。ベルって言うの。可愛いでしょ?」

 にべったりのその大きな黒犬はジェームズとリーマスに誰かを思い出させるのに十分すぎるぐらい似ていた。つい噴出してしまったぐらいだ。
 いきなり笑い出した二人を不思議に思ってみているけれど彼らの笑いはなかなか収まらずがお土産をせがむベルに店で買ってきた犬用のえさをあげてもバタービールが来てもまだ笑っていた。

「何がそんなにおかしいの?」
「いや、その犬僕たちが知ってる黒犬とそっくりなんだ。ね、ジェームズ」
「あ、ああ。その子と違ってオスなんだけど結構似てる。…言ったらその犬怒るだろうけど」
「怒るの?ベルはとっても賢くて美人なのに。ね、ベル」

 の足元で幸せそうに体を丸めるベルはまるでのペットのようだ。すっかり安心しきっている。
 それを見た二人は自分たちの黒犬がに懐いている姿というのを想像してしまって笑いが止まらない。そんな彼など見たくはないが見られたらそれはそれで一生物である。死ぬまで笑いのネタにすることは間違いない。
 はバタービールを飲みながらベルを相手にしばらく二人の笑いがおさまるまで待っていた。

「そんなに似てる?」
「見た目だけね。あいつはその子と違ってガサツだ」
「それにそんなに大人しくになつくとは思えないよ」

 それを聞くとは笑う。

「ベルってなかなか人に懐かない犬なんだよ。常連さんにもそっぽ向いちゃうんだって」
「こんなににベタぼれなのに!?」
「マダムも驚いてる。私昔から動物には惚れられるタイプなの」

 男の子もこんなになれば選り取りみどりだけどねと笑う。選り取りみどりではないがもてないわけではないことを二人は知っている。それでも選ばないのはの選択である。
 ベルは彼らの会話などお構いなしで始終に甘えっぱなしだった。

「マダム、ありがとう」
「こちらこそ。この子普段は遊んでくれる相手がいないからがいると助かるのよ。また来てちょうだいね」

 三人は笑顔で頷き店を出た。エディと待ち合わせしていた時刻はそろそろだった。

「ホグズミードも良いんだけど久々にロンドンの街でウィンドウショッピングもしたいなあ」
「あれ、ってマグル出身だったのかい?」
「ママがマグル。でも私にとってはママもすごい魔法が使える魔女よ」
「どういうこと?マグルなのに魔法が使えるすごいお母さんなの?」

 リーマスは首をかしげて不思議がる。ジェームズも同様だ。彼らの両親は二人とも魔法使いだからの言ってる意味はわからない。まあマグルの親がいても意味がわからなかっただろう。は秘密よとクスクス笑うだけでしゃべろうとはしなかった。
 ただ自分の家がロンドンのマグルの街に建っておりマグル対策は家の中だけにしているというと大変驚かれた。普通は人里離れた場所に家を設けるか街中にマグル除けの魔法をかけて隠れ家のように家を持っている家ばかりだ。
 でもはイギリスのマグルの国籍も持っているし近所のマグルの家族とも仲良くしている。少し不思議な雰囲気があると言われたことはあるが周りの家の人は友好的では今の家が気に入っている。

「エディは面白い家だって喜んでた。スイッチ一つで魔法使い用とマグル用に切り替わるから」
「へえ!それはぜひ見てみたい!」
「パパが喜ぶだろうなあ。設計士さんとかなり悩んで作ったって話だから」

 そんな話をしているうちにエディの姿が見えてはジェームズとリーマスと別れた。
 二人はの姿を見送る。楽しそうなの笑顔を見た後帰り道を歩きながらジェームズはリーマスを見た。
 その目は何かを企むようにキラリと光っている。その瞳で見られたリーマスはなんだいと聞かれることが何かをわかっていたけれどとりあえずそう尋ねた。

「で、確信は持てたのかな?」
「…魔法薬学で声を聞いたときから半分以上確信は持ってたよ」
「クリスティーヌの方は気づいてないみたいだ」
「ちょっとファントムを気取って声を抑えて話してたからね」

 クリスマスから一月。ファントムの視線の先にはクリスティーヌの姿があった。


(80%の確信と20%の不安)