紙に落ちる音はリズミカルだ。刻み、滲み、文字が綴られていく。
本日、様の行動。
午前、朝食後準備運動を済まされた後基礎訓練として森で「おにごっこ」。おにの相手はイルミ様の指定で執事見習いであるカナリアが担当。本日は初の一時間以上の逃亡を成功させる。なお、カナリアに対し常時一定距離を取り逃げることが可能になり次第、順次速度を上げ、最終的にはミケをおにとする。監視役として執事ミクリを配置。異常なしとのこと。
昼食は新しい毒を投入。体調を崩された場合午後は療養を予定していたが変化なし。耐性は以前からかなり高いため耐毒の計画は当初の予定より早い段階である。
午後、一般教養の学習。担当はゴトー。元々通信学習を受けていたためか自宅での学習に抵抗はない様子。ただし体を動かすことに嗜好が寄っており、積極的な学習態度はあまり見られない。理解力はあるため今後は本人の能力に合わせて学習進度を調整予定。
おやつ、様子を見るが毒は昼食よりも微量に留める予定。
その後イルミ様による直接指導。監視はゴトー。イルミ様の針に対する回避行動が主な目標である。初回の今日は針を完璧に回避したのは最後の一回のみ。様負傷。医務室にて治療。痕は残らないとのこと。
夕食はキキョウ様の招待を受けシルバ様、キキョウ様と三名で食事。先日終えたテーブルマナーの講義は身についたらしく、多少不安な動作は見受けられたが大きなミスをすることなく食事を終えた。
夕食後、自由時間として子ども向けのアニメを鑑賞。魔女の少女が悪役を倒すという内容。様はお気に召したらしく続きはいつ観られるかゴトーに質問。そのシリーズは終わっているので日曜日の朝に放送される旨を伝えると次回より観たいと希望。珍しく積極的な一面が見られた。
本日も大きな予定の変更はなく様就寝。
(メモ書きが挟まっている)
様はどうやら頬にかすり傷が出来たことが気になっていた様子。痕が残らないことを説明したところ安堵していた。
ゴトーは執事の中ではを監視する責任者であり、に関する言動に関して異常があれば報告する義務がある。
そのために彼は毎日の一日の行動をノートに記録し、後日ゼノ、シルバ、キキョウに簡略化した資料を提出している。の密偵疑惑は晴れたがこの報告は継続されることになった。
三人に対しては簡略化した資料を提出しているゴトーだが、イルミに対してはこのノートを一度提出し、確認を取っている。イルミはゾルディック家の家族側でを監督する責任者であり、ゴトーのことも含めほぼすべての事柄を把握しておかなければならないのだ。
そしてある日ゴトーのノートをいつものように見ていたイルミはこうコメントした。
「どうでもいいけど、ゴトーって好きだよね」
ゴトーはノートを返されるのをそばで待っていたところで、突然振り返って尋ねられたのだが彼は一瞬の間の後にこやかに返事をした。
「ゾルディック家の皆様がお預かりした方ですから、誠心誠意、お仕えしているだけのことです」
答えになっていない答えだったがイルミはふうん、とうなずきノートを返した。
(とある執事の記録)