「お前さんのバアさんの昔の写真、見てみるか」
「見る!」
その日はゼノに稽古をつけてもらった後だった。
イルミの修業は容赦がないがゼノの修業もまた容赦ない。にこにこ笑顔でゼノも本質的にはイルミと同じものを求めてくる。それもイルミよりもほんのわずかに上のレベルを。
ただ年の功というべきか、の扱いには慣れたもので、はゼノと修業をすることが嫌いではない。むしろ好きだ。ゼノは修業の後は必ず一緒にお茶を飲みおやつを食べ、の祖母の話をしてくれる。の知らない祖母の話ばかりで、はいつもそれを楽しみに修業をこなしていた。
「ほれ」
もともと見せてくれるつもりだったのだろう。すぐに手渡された写真には釘づけだった。じっと写真を見ることしばらく。黙っていたは困惑の様子だった。
「おばあちゃん」
「ん?」
「あんまり、変わってない」
「美容代聞いて目玉飛び出そうになったぐらい金かけとるからの」
と同じ漆黒の髪にウェーブのかかった髪をひとつに結んで口を開けて笑う祖母がそこにいた。瞳の色は濃紺だが、顔立ちも髪の色も髪質も、ととてもよく似ていた。隣には金の髪に真っ青な瞳の色をした男に、若いころのゼノ。
「ゼノさん、若い」
「そりゃ何十年……まあこれは言わんでおこうか。そっちの男も見覚えあるじゃろ」
は頷く。オウカを中心に三人で撮っているがもう一人の男には見覚えがある。
は写真の男を直接的には知らないけれど祖母に何度も話を聞いたことがある。
「おじいちゃんとも、仲が良かったの?」
「犬猿の仲ってやつでいつもあわや殺し合いじゃったがの」
かかと笑っていうことでもないのだがゼノは嬉しそうだった。はこの写真の、若いころの祖父しか知らない。
祖父は若くして亡くなっており、それ以来祖母は子どもを育てるため仕事でひとりで世界各地を飛び回っていたことは知っている。そしていつも肌身離さず写真を持ち歩いていたことも。
写真の中の三人はとても楽しそうで、幸せそうで、もなんだか楽しくなって微笑んだ。祖母はゼノの話をしたことはなかったが、昔の話は時々してくれた。その中にゼノに聞いた話も入っていて、もしかしたら名前を出さずに祖母はゼノとの思い出を話していたのかもしれない。
「おばあちゃんは、ゼノさんが好きだったのね」
ぽつりと落とされた言葉にゼノは目を細めて口の端を上げる。懐かしみ、その目は今はもういない相手を見ている。
「そうだと割に、うれしいかもしれんなあ」
珍しく照れくさそうに笑うゼノにはよくわからないけれどつられてにこり。
随分と、平和なひとときだった。
(思い出)