「遠き都では女人も武器を手にしているものなのか?」
今日も彼女は地面に背を預けていた。木刀を跳ねのけられ、そのまま足元を崩し、降参とばかりに仰向けになる。それが稽古の終わりの合図だ。
到底叶うはずもない相手に稽古を願い出て毎日転げ回る月の都よりの客人。
誰の客人でもない迷い人であった彼女は最近では知盛の客人と化している。彼が彼女の世話をする、と言い出した時には還内府が軽口を叩いたこともある。どういう風の吹き回しだ、と。
世話というのも剣の稽古のことだ。強い人間にしか興味がないはずの男が剣を握ったこともない女相手に気まぐれでも付き合うという。実質の生活や月の都に関する話は還内府を名乗る青年が請け負っているのだ。揶揄の一つぐらいは許されるだろう。知盛はいつものようにただ投げやりにさあなと返すだけだった。
世話をすると公言されると彼女は知盛に稽古を願い出ては振り払われている。彼の世話は気まぐれで、時折戯れに相手をしてみれば折れることを知らない相手に知盛は少しだけ愉快そうだった。
武器を手にしたことなどないとわかりきっているだろうにわざと聞くその調子に彼女は眉をひそめた。馬鹿にされたと感じたのだろう。
「そんなわけないじゃん」
「ではなぜ、怯んでまで俺の元へ来る?」
その言葉に彼女は間をおいて、怯みながらも知盛を見つめるのだ。
「せめて海で浮かぶ浮きになりたいから」
謎かけのような言葉は彼女にとっては誓言だったらしい。瞳に燃える何かを灯らせた。甘い構えで木刀を握りしめ、再び知盛に向き直るので知盛もまた来るなら来てみろと彼女と向き合うのだった。
(うきもの)