「お二人って、とても自然ですよね」
何を言ってるんだろうこの子はと、思わず話を中断して声の主を二人揃って見ていた。二人とは私と頭領のことだ。
にこにこと人好きのする笑顔を浮かべる可憐な少女が龍神の神子だなんて誰が信じるだろうか。
「あの、神子。どういうことです?」
最初こそ頭領の身分が割れてはいけないと私は隠れて仕事をしていたのだが、ある日私の姿を見られてしまい、最初は夢の屋の仕事上の部下。そして幕臣と、さらに鬼の一族だとわかった今は一族のひとりとして、私は神子一行に認識されている。何も考えずに会えるのは都合が良いが素性が知れているというのはどうにも落ち着かない。
今日は夢の屋としての仕事で頭領に話をしていたところだった。そうすると神子からの一言だ。仕事の話をしているだけなのに彼女には何か違うものが見えているのかもしれない。キラキラと、少女時代特有の希望に満ちた瞳が私と頭領を交互に見ている。
「お二人が話しているところを見るのが好きなんです」
「私と、彼女の?」
「はい。隣にいるのが当たり前、っていう感じがして、憧れちゃいます」
それは、私が生まれて間もないころから頭領に仕えるということを呪文のごとく耳にして生き、実際幼い頃から頭領と一緒にいて、ある意味苦楽を共にしてきたからかもしれない。鬼ということで私たちは迫害を受けたし、私は憤っていても隣の彼はそれがあるのかもわからないぐらい、ただ黙ってそれを受けていたから、私はこの人の隣で傍目には見えぬところまで理解したいと、幼心に思ったものだ。
幼少からの教育が功を奏したのか、私は頭領の一番傍で仕事をする人間になったし、彼と仕事以外でまともに会話が成り立つのも私が一番多くなった。
「まあ、彼女とは長い付き合いだからね……」
「小さい頃から一緒にいましたし」
それは、ある意味私と頭領の間では当たり前のことなのだ。多分これからも私は一族の人間として頭領の傍で仕え続けるわけで、それはもう、心に決めたことでもある。
ただこの神子殿はにこにこと、私と頭領のことをこうじゃないかなあ、という淡い色恋事に変換し盛大に勘違いをし、期待している。
「私も、そんな風になれたらいいんですけど」
「ある意味報われないからやめといた方が良いです」
「え?」
小さくつぶやいたのは彼女にも、隣の頭領にも聞こえなかったらしい。珍しく頭領がきょとんとした顔をしていた。この人は、神子の前では表情がころころ変わる。
だからつい、意地も悪くなる。
「気になるなら今度私と二人でお茶でもしましょう。良いお茶とお菓子を持って来ますから」
「本当ですか? 嬉しい」
「え、私も」
「女同士の集まりに男が入るのは無粋ですよ、頭領」
それでもうらやましいと隠しもしない人を見て、ああ、ちょっと、良い気分。
いいなあと、神子殿は相変わらず勘違いをしているけれど、ほんの少しでもそういう風に見てもらえるということで、私はしばらく上機嫌で仕事をした。
もちろん、後日神子と二人でお茶をしてその後頭領に自慢し羨望のまなざしを受けてにやにやしたのは当然の話である。
(もしかしたらいつか)