その夜は記録的な大雪で、きっとこんなに降る日はないだろうほどに降り積もり、翌朝になっても雪は溶けることなく一面銀世界だった。
 当然、解放軍の中はお祭り騒ぎだ。軍主を中心に雪合戦が開催されるほどである。
 は当然自主参加、彼女の隣に立つルックは軍主に無理矢理連れて来られたタイプだ。いつにも増して眉間にしわが寄ってかなりの機嫌の悪さが見て取れた。

「いいか! とにかく当てて当てて当てまくれ! こっちは俺が大将! 向こうの大将はビクトールだ!」
「おめぇら負けるなよ!」

 ティルもビクトールも鼻を赤くしながらどちらも元気一杯である。その二人の勢いに呼応するようにノリの良い面子がおう、と精一杯叫んで腕を空に向かって掲げる。
 はティルの背中と、その向こうに見える敵大将のビクトールを見習って腕をぐんと上へと伸ばしたがルックは舌打ちしていた。
 ティルによって無理やり連れ出されたルックは当然のように軍主チームだ。なぜがルックの隣に配置されたかと言えば彼の不機嫌に動じない貴重な精神力の持ち主だからだ。何を言ってもティル並みにしつこいのでルックも相手を諦めている程である。

「ルック、雪合戦はしたことある?」
「あるわけないだろ」
「よーし! じゃあ私が教えてあげるね!」

 息を白くさせて笑うの瞳は爛々と輝いている。普段ルックに教えられることはあっても教えることのないこともあり、見るからに大はしゃぎだ。
 ルックはそんなこと教えてもらわなくてもわかる、と言おうとしたのだがが上機嫌で雪玉を握り出すのを見て開きかけた口を閉じた。

「後ろの二人! 異性交友はほどほどに!」
「ふざけろ」

 軍主の雰囲気ぶち壊しの言葉とともに辺り一帯の軽い雪が大きな風に揺らされて飛び、人工の簡易吹雪という波乱とティルの大笑いする声が雪合戦開始の合図となった。



(思い出雪合戦)