ルック、と声をかけようとして慌てて両手で自分の口を塞いだ。
 目の前の出来事は夢ではないのだろうか。ルックが誰もいないとはいえ、石版の前で俯いて、そう、うたた寝をしている。
 そっと、息を止められるなら私は息を止めていたぐらいの慎重な足取りでルックの傍ににじり寄り、そっと隣に座ってみた。
 私の右側に、投げ出されたルックの左手が床とくっついている。
 触れないように、けれどできる限り近くに。そっと気付かれないように自分の手を並べる。

「骨張ってる」

 手の甲と手の甲を並べたら明らかに私とルックの手は違っている。
 いくら細くても、私の手のつくりとは違う。同じ年ごろの男の子よりはきっとやわらかな手をしているだろうけれど、私の手と並べてしまえばそれが男の子の手なのだと、わかってしまう。

「手、握ってみたいなあ」
「眠いから黙ってて」
「え、ルック」

 うるさい、と言いながらルックは私の右手を左手で握って、また目を閉じて寝始める。
 目が飛び出るんじゃないかというぐらい大きく目を見開いて隣の傷一つない肌の持ち主の、そのきめ細やかな顔立ちを見つめてみても、彼は反応一つせず、私の右手からは触れてみてもわかる、私とは違う男の子の感触が伝わってくる。
 どうしようどうしよう。
 そんな言葉も無視されて、私はひたすらにこの手を動かすまいとしばらくの間じっとしていた。


(てのひら)