また、夢を見た。あのザナルカンドの夢だ。私はスタジアムの一番上の席の隅っこに立っていた。
「さあ、ティーダ選手がゴールを決めるのか!?」
その名前に驚いて思わずスフィアプール(あのあと勉強したのだ)を見つめる。よくわからなかったからスクリーンに出ている姿を見つけ、あの日に会ったティーダだと確認。
そのままアナウンスの声に乗せられてしばらく試合に夢中になっていた。んだけど、ふと耳に何か入ってきた。
「…声?」
ティーダが一点追加したところで私はなんだかいてもたってもいられなくなりスタジアムの外を見渡す。ぐるり、360度。何も見えなかった。見えなかったけど、でも。
声が、聞こえた。
「ああああああ!」
周りが驚いて私を見てきたけどそんなこと関係ない。慌てて走り出した。外だ。あの声のところにいかないと。そうだよ、私は声を聞きたかったんだ。
こちらに来る前にいつも聞いていた声があった。何を叫んでいるのかわからなかったけど私はその声が聞きたくて、いつも目を閉じて耳を澄ませていた。何を叫んでいるのか聞くために。それから私が聞いているんだよと教えるために。
「声!」
「また、お前か」
「あああ、アーロンさん!」
試合も見ずに入り口に立っていたのは鮮やかな赤い服を着たアーロンさんだった。あの声が聞こえないんだろうか。落ち着いている。いや、会場がざわついているから何かが起こってはいるんだだろう。
それでもアーロンさんはじっと私と対峙している。
「お前は、なんだ」
「迷子です。声が聞きたい迷子です」
あの声が誰なのか、それだけが知りたい。多分、私は声を聞くためにいるんだ。そんな気がしてきた。
アーロンさんは何か言いたそうだったけどそれはスタジアムやあちこちから聞こえる悲鳴によって遮られた。
「…来たぞ」
「何が?」
心臓が早鐘のように鳴る。悲鳴をあげる人が増えるたびに私の心臓の拍数も上がってる。ドキドキしている。声が、聞こえる。誰の声なんだろう。どういう声なんだろう。何の叫びなのか。何も分からない、ただ声が聞こえる。
今来ているそれが、声の正体なんだろうか。
「シンだ」
スピラの世界で災いの象徴。それが、私に聞こえる声?
アーロンさんの視線を辿ればなんていう生き物なのかわからない、大きな大きな存在がそこにあった。シン。そういえばsinって言えば罪だとかそういう意味だった。
「人間の、罪の具現化であり、罰?」
「そう呼ばれているな」
「じゃあどうして叫んでるの」
何かを叫んでいる。なぜ叫ぶのか。それは聞いて欲しいからだ。伝えたいことがあるからだ。じゃあこの声はどうして他の人は聞こえないんだろう。気付いていない?気づくことが出来ない?
シンとは?一体、何なんだろう。
「何か、叫んでいるのか?あれが?」
「私は、それが聞きたくて迷子になったのかもしれないんです」
アーロンさんの脇をすり抜けて、悲鳴をあげる人たちとは反対の方向に走り抜ける。体力なんてこれっぽっちもないけど全力で駆け抜ける。シンに会うために。声を聞くために。
高い場所にたどり着いてその大きな体を全て見た。街一つ覆い隠せるぐらいに大きなシンはこちらに向かってきている。
「あなたが!叫んでいたの!」
確証なんてない。ただ、叫んでいたのだろうか。少しの期待を込めてる。
下では悲鳴。こわいんだ。私だって怖い。あんな巨体相手じゃ私なんて押しつぶされておしまいだ。ぺっちゃんこ。痛みを感じる前に死んでしまう。
でも、潰されない気がした。本当になんとなくだけど。大丈夫だって気がした。それは夢を見ているっていう気持ちも大きい。目が覚めれば私は屋敷にいるんだから。…ただ、それにしてはリアルすぎるけれど。
「ねえ、あなたが叫んでたの?」
返事なんて聞けるわけもなく、夢の世界から私ははじき出された。
ただ、最後に何を叫んでいるのか少しだけ聞こえた。
『誰だ』
それは、こっちが聞きたいよ。
(裂けるように、声)