夢を見た。ザナルカンドの夢だ。千年前に滅んでしまった都市の夢。私は道の真ん中に立っていた。
「…誰も、いないの?」
そう言った瞬間に時が止まっていたように思えた街に人が現れ、ネオンがキラキラ輝き、車が走り出した。雰囲気はスピラよりも私のところと近い。友だちや家族や恋人と談笑しながら立ち並ぶ店の間を歩いていく人々。少しだけ既視感。
よくわからなかったけど夢であることは確かだ。私はシーモアの家の客室で寝た。だからここは夢の中だ。なぜ、ザナルカンドの夢を見るのかはわからないけど。
「エイブスのエースといったらアイツしかいないだろう!」
「いいや、父親にはまだまだ届かないね」
「お前、あの人の大ファンだったからなあ」
「惜しい人を亡くしたよ、ホント」
ショッピングを楽しむ人がいる中で少なくはない人がどこかに向かって歩いている。その先がどこなのか私は一生懸命辺りを見渡して一つの大きな建物、みたいなものを見つけた。
巨大な水の球体があったのだ。あったというか、今ちょうど作られている。驚いてふらふらとそちらに向かって歩き始める。なんだ、あれ。
そうやってあの球体ばかり見て歩いていたもんだから当然人とぶつかった。
「っと。ごめんなさい」
「…試合が楽しみなのかもしれないが前ぐらい見て歩け」
「試合?なんのですか?」
相手はほんの少し驚いたらしかった。じっと私を見て、本当に知らないのかと聞いてきた。どうやら常識らしい。
そういわれてからそういえばあの屋敷で一般常識の勉強をしているときにああいう水の球体が何だかんだと習った気がする。嘘っぽくて忘れていた。
「ああ、ブリッツの試合でした!」
「…お前、ここの人間じゃないな」
「うーん、迷子です」
私は元の場所以外にいるし帰る方法がわからないから迷子だ。いつでもどこでも迷子。帰れるという確実な保証がない迷子。
ぶつかってしまったのは男の人だったのだけれどこの人の瞳は嘘を許してくれない気がする。真っ直ぐ鋭い視線で、思わず背筋を正してしまうような、そういうもの。
「アーロン!どこ行ってたんだよ」
「あ、連れがいたんですか」
「え、アーロンってばナンパしたの?」
「…ぶつかっただけだ」
先に行っていたらしい連れの青年が歩いてきた。スポーツマンとわかるしなやかな筋肉をつけた体で、肌は日に焼けている。私より少し年下ぐらいだろうか、二十歳は越えてない。
このおっさん無愛想だから怖いだろ、ごめんな。そう言ってくれたことにハッと我に戻って慌てて口を開く。
「いや、ぶつかったのはこっちだから。ごめんなさい」
「別に気にしてない」
「…ありがとうございます。二人もあそこに行くんですか?」
そう言ったらキラキラの金の髪の青年は驚いて私を見てきた。アーロンと呼ばれた男の人はクツクツおかしそうに笑っている。…私は何か変なことでも言ったんだろうか。
「…オレのこと、知らない?」
「もしかして有名人だったり?」
「うーん、多少ね」
「この街にははじめてきたから知らなかったの、ごめんね」
はじめて?と青年は首を傾げた。アーロンさんは興味深そうに私を見た。
「ザナルカンドの外から?」
「そう。迷子なの。帰り道が見つからないんだ」
「オレ、手伝おうか?」
「お前は今から試合だろう」
「あ」
道にある時計を見てやばいと青年は私と時計を交互に見ながら心底申し訳無さそうにしている。…見つからないから、良いのに。
「急いでないから観光がてらうろうろしてみるつもりだから。大丈夫。ありがとう」
「本当、ごめんな。試合終わったら街の案内するよ」
「ありがとう」
「アーロン、行こう!」
「ああ」
パッと走り出した青年と、アーロンさんの口から名前を聞いていないことを思い出して、遠くなる背中に向かって叫んだ。
「あなたたち、名前は?」
「おっさんはアーロン!オレは、ティーダ!ザナルカンド・エイブスの選手だよ!試合、見に来てくれよな!」
その言葉で私はティーダがブリッツの選手だと知り、周りが驚きと嬉しさのざわめきをあげたことから人気が高いことを知った。
アーロンさんの真っ赤な服とティーダのキラキラの髪が通りの角に消えていったと同時に私は夢から覚めた。
(夢の世界)