異界に毎日通っていると異界に来た人と仲良くなることがある。しばらくグアドサラムに滞在するといった女の人とも異界で知り合った。
 異界に行っても私の知り合いは生きている人も死んでいる人も私が願っても出てきてはくれないので私はいつもじいっと異界の遠くにある幻想的な景色を見て、それから物思いにふけっている。大抵は自分の世界に浸って周りを気にかける人なんていないんだけどときどき私に気付いて声をかけてくれる人がいる。女の人もそんな一人だった。

「わたし、僧官なの。世界を巡り歩いて傷ついている人を助けているわ」
「えっと、白魔法で?」
「そうよ。…あと、祈りも使えるの。召喚士になろうとしたけれど才能がなくてね」

 召喚士。世界を救ってくれる勇者みたいな存在。でも私は召喚士がきらい。いや、召喚士は嫌いじゃないけど、召喚士に頼りきってるこの世界の現実がきらいだ。だって、シーモアから聞いた話だと召喚士は世界を脅かすシンというものを倒すために死ぬんだから。
 召喚士様頑張ってくださいね。そう言って人々は召喚士を尊敬し、応援するらしい。世界の犠牲になってくれと笑顔で死を求めてる。

「あの」

 そんな話を聞いているうちに私は力がない、無力な人間だって気付いた。この世界で生きていくには常識も何も知らない、とてもちっぽけな人間だって。
 だから女の人が白魔法を使えるって聞いたとき、思いついたことは一つだった。

「私に、人を救う力を教えてください」

 きれいに笑うその人は、さびしそうに笑った。






 彼女は滞在中私に二つのことを教えてくれた。『祈り』と『異界送り』だ。私には白魔法が全く使えなかったけれど召喚士に必要だというその二つだけは出来た。彼女に教えてもらったのは技術的には二つ。だけど彼女は旅立つ前に微笑みと共に私にとても大事なことを教えてくれた。

「人を救う力を教えてくれと言われたけれどね、それは誰でも持っているのよ」

 彼女が出来ると言ったのは人の傷を癒すことと人が戦うときに少しだけ手助けをすることだった。それは救うと同義ではないんだと、彼女は笑って言った。私に世界を救う力は与えられていないとも。
 この人はいつか人を癒して、その途中で死んでしまう気がした。召喚士になることもなく、歴史の中の名もないひとりの人として、死んでしまう気がした。

「世界を救う人はね、人を救えるわ。けど、人を救える人が世界を救えるわけじゃない」

 私が世界を救えるかどうかはわからない。私はそんなに大それた人間ではないから召喚士みたいになりたいわけじゃないから、良いけれど。
 でも、人を救える人でありたいと思う。世界なんて救えなくて良いから、私は私の大切な人が悲しまないように、傷つかないように、救える人でありたいと思う。

「ありがとうございました」
「さよなら、小さなお嬢さん」

 ふわり。微笑みは雷の平原に消えた。

(両手に持てるだけの救い)