どうしてこんなことに。
たどり着いた作戦本部の陣幕で遠巻きにされ、衆人環視の中、私はシーモアと二人きりだ。そばにはグラム。この場合グラムは数に入らない。私も不思議なもので慣れてしまった。
この二人だけなのもグアドサラムを旅立つ前までならなんてことのない光景だったのに今はもうどうしていいのかわからない。
それなのにまた姿を見られて嬉しい気持ちも消えなくて、私はどこにも行けない自分に情けなくなった。
「ユウナ殿と一緒にいることはわかっていましたが、グラムを困らせたのは良くなかったですね」
「ごめんなさい。グラムは私のこと守ってくれていたのに、私が勝手をしただけ」
「勝手をさせるなと、言いつけて守れなかったのはグラムですから、あなたに責はありませんよ」
その言葉に私は苦笑いだ。
シーモア、どれだけやさしく言葉を連ねても、それはつまり私のことを見張って信用していなかったってことだよ。当然なんだけど、でも私はやっぱりシーモアの隣には立てないのだと思い知らされるみたいだった。
グラムが責められて責任を取らされたりしないといいなと思う。
シンに会いたい気持ちと、シーモアのことを考えて心配している気持ちとが私の中で入り交じる。
「この討伐作戦が終わったら私はグアドサラムに戻るのかな」
「一度落ち着いた方がいいでしょうね」
迷子になって逃げ出して。保護しておくだけの理由もないだろうに、それでもまだ面倒を見てくれるらしいシーモアに自分で言いながら驚いた。
「結婚式の準備で忙しいんじゃないの?」
「ええ、そうですね。ですから作戦後、あなたはグラムに送らせます」
この会話をしながらわかったのはシーモアはこのシン討伐戦が成功するなんて欠片も思っていないということ。私をどうしたいのかがわからないこと。私がどうしたいのかわからないということ。胸がどうしようもなく苦しいということ。
「シーモア」
「はい」
「私のことなんて、放り出していいんだよ」
結婚をする相手がいるといい、それとは別に他にも何かやるべきことがあるような人。
その人は、気まぐれであったとしても私とお揃いの指輪なんて着けている場合じゃないはずなのだ。
どこから来たのかもわからない、どこへ行くかもわからない私に関わるほど、シーモアは暇じゃないはずだった。
だから、私が口にした言葉で微かにでも驚かないでほしかった。
「あなたを手元に置くわがままは許してもらえませんか」
「……シーモアが考えていること、私には教えてくれないのに?」
「教えたら、傍にいてくれますか?」
この人は、私をどうしたいんだろうか。
お母さんに似ているだけの、ただの迷子どころかシンに会いたいだなんてこの世界の人にとってはおかしなことを言う人間なのに。
なんにも言えない私にシーモアはただ微笑むだけ。
「この作戦ではもしかしたら危険があるかもしれません。あなたは私かユウナ殿たちか、どちらかから離れないように」
「私はシンに会いたいのに?」
見たらわかりますよと、微笑むだけのシーモアに私はかける言葉なんて持ち合わせていないのだった。
(取りたかった手)