「あなたはどこから来たの?」

 ミヘン街道の半ば。
 戦えないのでユウナと近くにいて守られることになった私は自然とユウナに話しかけられることになった。
 数日前に複雑な気持ちで見ていた彼女は話してみると歳も変わらないこともあり気さくで気の利いたかわいい、ただの女の子だった。

「ザナルカンドよりも遠いところかな」
「ザナルカンドじゃないの?」

 半分真実。もう半分は比喩と受け取ってもらうために口にしたのに。
 ここではザナルカンドは遺跡で、人なんて住んでいないというのにユウナはまるでザナルカンドが今もそこにあるかのようにその名前を口にしていた。
 街道は魔物も少なく、私とユウナはのんびりと会話をしている。
 本当にのんびりとしていてこれが召喚士の過酷な旅の道中だということが嘘みたいに晴れやかな午後の日差しを浴びて歩き続けていた。
 ユウナは私の言うことを本当に信じてくれていて、不思議がっているように見えたから、素直に口にしてしまった。

「気づいたらグアドサラムにいたから、本当はよくわからないの」
「グアドサラムに?」
「不思議な、不思議なところだよ」

 毎日死者に会うために多くの人がやってきては向こう側に見える幻想的な花畑には目もくれず目の前に現れた姿にただひたすら話しかける。私の目の前には誰も現れず、いつも向こう側に見える花畑と滝と、どこまでも続く世界を見つめるだけ。
 あの街はそんな場所の近くで静かにひっそりと生きている。
 生と死が限りなく近くにいて、まるで生きているかのように死者に語りかけ、死者のように息を潜めてグアドの人たちは生きている。

「あなたは、グアドサラムが好きなんだね」

 声は当たり前のように、その言葉を紡いだ。織り職人がひたすらに糸を紡ぐかのようにそれは自然な動作だった。
 私の言葉は、表情は、声の色は、ユウナから見ればそういうことなのだ。そしてそれは私がはっきりと言葉にして認めたくなかった確かな言葉だった。いつだって曖昧にしてきたものが、そこにはある。

「うん。好きだよ」

 陽の下で認めて口にしてしまったものは苦くて、それなのにやっぱりどうしても脳裏に思い浮かべるものは優しくて、でも泣きたくなるような、なんとも言いがたい、大事なものだった。
 壊れないように、名前をつけられないように、そっと真綿で包んでいたものは、とうとう、その中身を外にみせはじめていた。

(真綿の中身)