「シンはジェクトだ」
聞こえてきたその言葉たちは多分、私が聞いちゃいけない話だったのだと思う。
泣き出しそうな悲鳴にも似た言葉が響いて、それに返す言葉はただ淡々と、それでも揺るがない、その声の主を私はどちらも知っている。わずかだけど知っている声。わずかだけど知ってる話。それを、繋ぎ合わせるとつまり、信じがたい現実が私の目の前にやってくる。
積み荷たちに隠れて丸くなった私が、気まずくてさらに身を丸くした時だ。
「……そこにいるやつ、いい加減出てこい」
二人はもうこの場から離れるだろうと思ったところだった。このまま隠れていられるかと思えばそう簡単ではなく、投げかけてきた声の主、アーロンさんは私の方に向かってはっきりと声をかけてきた。
バレている。
観念してそろそろと出ていけば一人は表情も変えず、もう一人は驚きに目を見開いて私のことを見ていた。
「お前か」
「な、え?」
気まずくて真正面から顔を見られない。アーロンさんの言ったことを私は覚えていて、その事実はひとつの事実を私につきつけてくる。
それでも、私には私の望んだことがあって、そのためにここにいると思っているから。
見つかってしまったことに半分安堵しながら、私は思うままに口を開いていた。
「シンに会いに行くのなら、私も連れていってください」
深く深く頭を下げる。ハッと息をのむ音がひとつ。もうひとりはわからない。私はただ頭を下げたまま。
なんでこんなことになったのか、私にはよくわからない。けど、優しい彼から逃げ出すような、そんなことをしたのは私にはやっぱり彼の本当に望んだことがわからないからかもしれないし、優しいまやかしみたいに穏やかな時間で私をくるんでしまいそうな彼がこわいからかもしれない。
私がここにいるためのはっきりとした唯一の理由。
私はシンに呼ばれてきたから、シンに会いたいのに、シーモアはそれを私から取ってしまいそうな気がした。
「シンに会って、何をするつもりだ」
もう一度、アーロンさんは私をまっすぐ見つめてきた。この間、問いかけてきたときと同じように。逃げることを許さない、私にはっきりと求めてきている。
ティーダはよくわかっていないみたいだったけれどそれでも私の方を見ていた。
青空の下、太陽は眩しく、強く、私たちのもとに降り注ぎ、私はアーロンさんから目を逸らすことなく、その目をはっきりととらえ口にする。
「私は、シンの声を聞いて、シンに会いに来たんです。呼ばれたから、私は応えたいんです。だから、私はシンに会うというあなたたちについていきたい」
それはつまり、シーモアいつか結婚するらしいあの女の子と一緒に旅をするということだと、途中で気付いたけれど素知らぬふりをする。私はだって、シンに会いに来たのだから、それ以上に大事なことなんて、ないんだから、知らないふり。
シンを倒すという召喚士とは違う。街や人を壊すシンに会いたいという私は多分、この世界で一、二位を争うぐらい変わっていると思うけれど、それでも、私は会いたい。それがどれだけ危険なことだとしても、何をすればいいのかわからなかった私にとって、声の呼ぶ方へ行くことは初めてできた役割で、重要なことだったから。
「邪魔はしないから、シンに会った後は放ってくれていいから、お願いします」
もうどうしたらいいのかわからないから、私はただひとつはっきりしているところへ行きたかった。会いたかった。どうして私を呼んだのか。
ねえシン、あなたは、なんであんなにも叫ぶようにして呼んでいるの?
会えば、何かが変わる気がして、何かが起こる気がして、私はすがるようにシンをさがす。
(あなたは確か)