「あー! あんた、あんときの!」
選手の控え室側の廊下から出てきた金髪の少年に、私は思わずほほえんだ。だって、きらきら太陽みたいに眩しい笑顔で私との再会を喜んでくれたから。
「どうしても、会っておきたくて」
「あれからいくら街を歩いてみても会わないからさ。会えてよかったっす!」
誰だ誰だと彼をのぞき込むブリッツのメンバーに、面倒くさそうに後ろで距離をとって見守るグラム。
私はただ単に、この彼に会いたかっただけだった。何の理由もなく、……強いて言えば、彼のブリッツの選手としての勇姿をみたのだと、そう言いたかった。
「この前会って言われた時は試合、見られなかったけど、ルカで試合ずっと見てたよ」
「ほんとに?」
「さすが、ザナルカンド・エイブスのエース」
にこりと笑いかければ、少しだけ驚いて、少しだけ眉をひそめて、でも最後に彼はすごくくすぐったそうに笑った。
ザナルカンドは千年前の遺跡で、今はもうだれも住んではいない場所だと、だから軽々しくその名を口にしてはいけない。あの地は召喚士の旅の終着地でもあるのだから。
そう、教えてもらったけれど、でも私は確かにザナルカンドとしか思えない都市で、ザナルカンド・エイブスの選手である彼を、ティーダをみたのだ。私の中では、ザナルカンドは存在する。
笑ったあと、彼は少し話そう、と海側を指さした。頷いて、チームの人たちに視線を向けられながらも二人で(後ろにグラムがついてくるのは言っておいた)歩きだした。
「あんたは、ザナルカンドを信じてるのか?」
ぽつり。小さな声だった。
ここではザナルカンドに住んでた、行ったことがある、なんて言っても正気の沙汰じゃないという目で見られるのだそうだ。夢を見たあと改めてザナルカンドについて聞いたりしているうちにそういうことがわかってきた。
きっと、彼はザナルカンドが遺跡だと、そう言われたんだと思う。
「だって、私はあなたがいたのを見たし、あのとき私はザナルカンドにいたから」
「……帰れると、思うか?」
現実は、遺跡だという。千年前に栄えた都市。夜も眠らぬ光を纏う都市。私の生きてきた世界とほんの少し、にている都市。
私は、ティーダとは違うけど、似たような、帰りたくても帰れないという少し似た立場にいる。
そして、私は、私がいつか自分の生きていた世界に帰れるとは、思ってない。
「わからない」
「……だよな」
「でも、諦めたら終わり。諦めなければ、もしかしたら、帰れるかもしれないよ」
帰れるとは思ってない。でも、帰りたくないわけじゃない。帰るのを諦めたわけでもない。
いろんな気持ちが混ざってしまってはいるけれど、私はここに永住するとか、そういうことは考えているわけでもなくて、なんとも言いがたい。
「きみが帰りたいと思う心を持っているなら、帰れる日がくるかもしれないし、」
「しれないし?」
続く言葉はすぐにはでてこない。
促され、息を吐くように小さくつぶやいた。
「いつかは留まるだけの理由ができるかも、しれない」
帰れなくてもいいと、それでもここでやるべきことが、やりたいことができれば、それは次の道しるべになりうる。
今の私は宙ぶらりん。きっとティーダも一緒。ふらりふらり。どうしたらいいのかわからず、戸惑っている。帰りたい、でも、この世界は嫌うほど恐ろしい世界でもなく、共にいる人はあたたかい。
「ティーダ」
「ん?」
「私も、私の知らない世界に、今いるんだ」
立場も考え方も元の世界も何もかも違う。状況が似ているだけの、たまたま出会った相手。
息をのむ声がした。
「帰れると、いいね」
私自身への言葉なのか、相手への言葉なのか、はたまた両方か。
どちらの道も未だ見えない。
相反するみたいに、ルカの海は青青と光を反射して、空は雲一つないはっきりとした青空を見せていた。
(迷子がふたり、ひとりぼっち)