生のブリッツの試合はそれはもう迫力満点で、私はただただその試合をずっと見ていることしかできなかった。
 球体の水の球。その中をすいすいと魚のように生き生きと泳ぎボールの取り合いをする選手たち。水中で、手でパスをするサッカーみたいだ。
 よくもまああれだけ息が続くものだなあと、感心してしまう。そしてキラキラ光る金色の髪を見つけるとドキドキしてしまう。

「……ザナルカンド・エイブス、か」

 いつかの夢で出会った人がここにいる。生き生きとスフィアプールの中をところ狭しと縦横無尽に動き周り仲間へパスしたかと思えば自らボールを持ちあっと言う間にゴールを決めてしまう。
 彼を見たのはあの夢以来で、ゴールを決めた瞬間の彼を見ればキラキラ、まぶしいぐらいの笑顔が見えた。(スクリーンに仲間と喜ぶ姿が映っているのだ)

「知り合いか」
「少し、はなしたことがあるの」

 こんなにも迫力満点の試合だというのにグラムときたらいつもの仏頂面を崩すことはない。私の斜め後ろに座っている。
 どうして隣に座らないのかと聞けば隣だと護衛の意味がないと一蹴された。座っているのは周りの観客に配慮してのことらしいから、その程度はブリッツの人気を理解しているらしい。

 今の私はグラムと二人、いわゆるVIP席と言われる場所にいる。ただシーモアが座っているところとは違う。あそこは超特等席、みたいなものでスタジアムが一望できるようだった。もちろん観客席からはその特等席がどこからでも見られる。
 そことは違う、他の観客と一線を画しているこのひっそりとしたVIP席は私とグラムの二人占めだった。
 わくわくとどきどきが止まらない私がそれからしばらくブリッツボールに夢中になっているとふと後ろから声が落ちてきた。ストン、と落ちてきたくせにその内容はズドンと私の心に落ちてきた。

「明日は決勝だが早めに切り上げるぞ」
「え!?」

 このままいけば、彼のいるビサイドのチームが優勝するかもしれないのに。
 私の心の声は顔に出ていたのだろう。グラムはあきれたように私を見ていたが不意に目をそらした。珍しい。

「……どうして」
「その後の予定が詰まっているからな」

 嘘だ。
 そのとき私はそれが嘘だとわかってしまった。グラムは私のことを守ってくれるけれど、それは私のためではないことを、私は知っている。
 グラムはシーモアの望むことを行う。
 今のシーモアはつまり、私がここにいることを望んでいない、のだ。

「……それは、絶対?」
「……、おまえが泣こうが駄々をこねようが、絶対だ」
「わかった」

 グラムは本当に私が泣いて嫌だと言っても私をかつぎ上げてそのまま外に連れ出すんだろう。それがシーモアの望みなのだから。
 なぜスタジアムにいるのがいけないのか、それはわからない。わかるはずもない。ただシーモアは私の望むことはなるべく叶えてくれてきたから、きっと明日私がここにいることは彼にとってじゃまなのか、それともいてほしくない理由が何か他にあるということだ。

「今日は、いいの?」
「今日は、な」
「何をしても?」
「危険なことでないこと、一人で行かないこと、が条件だ」

 それならば私のすることは決まっている。
 小さくうなずいたと同時に試合終了のホイッスルがスタジアムに鳴り響いた。

(優しく傲慢な嘘)