泣くだけ泣いてパタリと意識を手放した私は部屋で寝ていることを理解した瞬間、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうになった。
窓の外を見ればもうあたりは暗くなっている。ただ、外はしんと静まった空気ではなく、ざわざわと空気が揺れているからまだ日が沈んでそう時間が経っていないことはわかった。
とりあえず起き上がってみたけれど今日一日の自分の言動がとんでもなくて、どうにも部屋を出る気にはなれなかった。
そうして悶々としていれば静かなノック音。思わず体が動きを止める。
「はい?」
「起きてましたか。夕飯の用意ができましたが、食べますか?」
扉越しに聞こえてきた声は昼間しがみついてしまったその人のもので、私は一瞬頭が真っ白になってしまった。一瞬だけ。
「うん。お腹空いちゃった」
次の瞬間にはそう言って扉を開けていた。
何もなかったかのように、久々に会ったことを喜んで、どうしていたのかと近況を報告しあって、食後はグアドサラムにいたときのようにゆっくりとして。
離れていた時間を忘れてしまいそうになるぐらい、空気がいつも通りになってきた。
「今日、ユウナ殿のことは見られましたか」
「……ああ、一緒にいた女の子?」
今までと違う声色。ほんの少しばかり違う。妙にやわらかい。
「ええ。まだ正式にではありませんが、彼女と婚姻を結ぶ予定です」
妙にクリアになった世界にその声はよく響いた。
私はただシーモアにお世話になっていた居候で、ここで私が言うべきは「おめでとう」ということで、すべきことはにこりと笑みを浮かべることだ。そうなのだ。
だけどその時私はそれをうまくできたのか、よくわからなかった。
心臓が痛いのは、気のせいなのだと、誰か、お願いだからそう言って。
(痛みのゆく先)