迷子にならないように。余計なことには首を突っ込まないように。知らない人についていかないように。
いろいろな注意事項を耳にタコが出来るぐらい言われた。言われた、はずだった。
「あれ?」
気づいたら、ルカの雑踏で一人立ち尽くしていたなんて、そんな馬鹿な。
グラムが私を見失うなんてことはないと思っていたんだけど私が甘かった。この世界の最大の娯楽であるブリッツボールの大会をナメてはいけなかった。
まだ大会自体は開催されていないのに事前に集まった人は今の時点で相当な数だ。昼間は通りのあちこちに人が溢れている。夜は静かになってしまうけどその分は朝早くから店が開いている分でカバーだ。
「……まあ、お金もあるし宿も分かってるし、いっか」
たぶんよくないことだらけなんだろうけど今から宿屋に戻るのも面倒だったしいつもいつもグラムがじっと仏頂面で後ろを歩いてくるのも正直しんどかった。悪い人じゃないのは十分わかってるけど愛想を振りまくということが嫌いらしい。鼻で笑うばかり。それから仕事の線を越えたりしない。
一歩が、大きい。グラムは私を護衛してくれる人。それ以上でも、それ以下でもなかった。
「んー、何しようかなあ」
ブリッツの大会は明後日から。シーモアは明日には入港する。だいぶルカを歩き回った私としては早く明日が来てほしかった。シーモアに話したいことがたくさん出来た。
ルカの街はキラキラと輝いていて魅力的だったけど、グラムはときどき、本当にときどきだけど笑ってくれたけど。
シーモアに話したいことばかり、増えていったんだ。早く明日が来ないかと、私はそればかり期待してる。
「お姉ちゃん、おまもりいりませんか?」
「私?」
「うん」
小さな籠を腕にかけて駆け寄ってきた女の子は十かそこらだ。店の手伝いだろうか。籠いっぱいに小物が入ってる。
「鈴の音がしあわせを呼んでくれるの。最後の一つ、いかがですか?」
銀色の小さな鈴に赤いリボンがつけてある。女の子に声をかけて少し鳴らせば透き通るような音が出た。
「じゃあくださいな」
「ありがとうございます」
シーモアからもらっていたお小遣いで初めての買い物だった。グラムからは貧乏性だと笑われながら結局ずっと使わなかったお金を私はひとつの小さな鈴に使った。
揺らせばチリンと良い音が鳴る。楽しくて鈴の音に夢中になっていると足取りがおろそかになっていたらしい。思いきりぶつかった。
「あ、すみませ」
「……おまえは」
目の前には見覚えのある赤い服。
「アーロン、さん」
雑踏の中でぶつかったのは見間違えようのない人。
(さがして、みつけて)