夢でシンに会った次の朝、私はベッドから転がり落ちるように飛び出して寝間着のままだとか顔を洗っていないとかそういうところも全部放ったらかしにして朝食を口にしていたシーモアに向かって叫んでいた。
「シンは今何処にいるの!?」
当然、私がいきなりそんなこと言うもんだからシーモアはびっくりしてしまう。とりあえず顔を洗って着替えて朝食を食べなさいといわれた。それから話をゆっくり聞きましょうとも。
そこまで言われてようやくふと冷静になった私は慌てて部屋まで引っ込んだ。嫁入り前の娘がはしたなすぎるよなあ、これ。やってしまったあとだからもう開き直るしかないけれど。
シンといえばスピラの世界では恐れられる災いの象徴であり罪の具現化したものでありシンによる破壊は人間への罰だという。千年前の高度すぎる技術によって起こった戦争のときからシンは千年という長い間罰を与え続けているのだと。
そうしてそのシンを倒すために、たった数年の平和を手に入れるために召喚士は旅立つ。シンを倒すために、死にに行く旅を始める。
一般の人からすればシンなんて一生見たくないものなのだ。見てしまえば死んでしまうかもしれないし住んでいる場所は壊滅状態になってもおかしくないのだから。
「シンを見たいのですか」
顔を洗い髪を整え着替えて朝食を取るところまで来て私はシンはどこにいるのか、もしくはどこに現れるのかと聞いた。そうしたらシーモアは難しい顔でこう答えたのだった。
見たいんじゃなくて、会いたい。それが私の正直な気持ちだ。シンに会いたい。声を、聞きたかった。
「会いたいんだ。そうしたら、私がここにきた理由がわかるかもしれないから」
何も分からずにただただ日々を過ごすのは楽だ。世界のことを勉強してシーモアに甘えて毎日異界に行って、それの繰り返し。変わらない日々。
でも、それじゃあ何も変わらない。私はただシーモアの厚意に甘えてそれでおしまいだ。何をすることもなく時だけが過ぎていく。
「シーモア、私はお世話になるだけじゃだめだと思うんだ。シーモアにお礼をしたいし、それに私がやりたいことも見つけたい」
「そのためにまず、シンに会いたいと?」
「シーモアにお礼をしてからだけど。本当にお世話になってるから」
そういえばシーモアは笑った。たいしたことはしていないと。でも私からすれば命の恩人なのだ。何をしても足りない気がする。一体何をすればシーモアに報いることが出来るんだろうか。
「シーモア、私はシーモアに何をしてあげられるかな」
「なにも。わたしはあなたにたくさんのものをもらっています」
「…私がもらってばっかりなんだけど?」
私は衣食住保証してもらって勉強までみてもらって何もかもおんぶに抱っこ状態だ。シーモアにお礼を言うことは山ほどあってもたくさんのものをあげたことなんてない。何もない。私の手は空っぽだ。私のものと呼べるものはこの身ひとつ。
私が何をシーモアにあげたのか、何度聞いてもシーモアはただ笑うだけで答えてくれはしなかった。
(空の手に満たされたのは)