あなたの優しさが花を手折らぬためのものだとして、私が花だとどうして決めつけてしまったのでしょうか。
 それは手折られるほどに儚い花ではないかもしれないし、花だとしても木々に咲かせる花かもしれないのに。





















「エンマ、私はそんなにか弱く見えるのかな」

 ここはエスツァン。海に囲まれた小さな島国で、結束力のある王族と国民によって成る至って平和的な国だった。
 国王は豪快な人柄だが国民とよく語り合い臣下とよく話し合った。王子はその下で父の背中を追いながらも日々国中を見て回っている。
 その国のたった一人の姫君は以前家出をしており、現在は婚約者の国への家出から戻り改めて花嫁修業等々に明け暮れていた。
 それが今しがたやってきたこのエンマという女性によって少し様相を変えようとしている。

「あたしには難しいことはわからないですけど、陛下は心配なんだと思いますよ」

 エンマは「休暇中」のため、隊務を離れてこのエスツァンにたまたま旅行に来ている。
 そして彼女は「世間話」として彼女の国の王様が国を出奔したと聞いたのだ。それも、ロックと一緒に。
 表向き帝国と同盟を結んでいたフィガロが反帝国勢力と繋がっていることはもちろん秘密にされていたがある意味で公然の秘密でもあった。
 エスツァンからみてもそれはわかっていたことではあったが、今回それがとうとう公になった。そういう話だった。
 そうしてエンマがわざわざやって来た。

「危ないことする自分といたら……王女まで帝国に目をつけられるとお思いなんでしょう」
「かといって父様がケフカと馬が合うわけないってわかってるでしょうに、エドガーも」

 エスツァンは開けた土地もあまりなく、さらに周辺の潮流は複雑で、海図を持っていなければ行き来は難しいと言われる中、海図はエスツァン国によって管理されている。
 島国ながら優秀な水軍を持つと噂だがその水軍は基本的に防衛のためにあり、手を出さない限りはまずは友好的な外交を好む。
 そのおかげもあってか帝国も下手に手を出すこともなく今も大きな衝突はなかったがフィガロがこうなると友好国であるエスツァンも覚悟を決めなければならない。
 話を聞いたマクリールは来るべくして来たと言わんばかりの満足そうな表情で、隣で息子がため息をついていた。

「で、「休暇中」のエンマは何をしに来たの?」
「しばらくはエスツァンの勉強でもしようかなと思いまして。我々は普段陛下の傍を離れませんが未来の妃殿下の生まれ故郷を知らぬのも失礼な話ですから。代表として知見を広げに参りました」
「エドガーらしいね」

 要はエンマを護衛につけさせてくれというのだ、あの王は。そして彼女は彼との連絡係でもあると。
 だからどうか国で待っていてくれと。

「私が待つと思ってるのかな?」
「一応は望んでおられましたよ」

 苦笑いでしたけど、とそれを告げるエンマもまた苦笑いだったけれどそれを聞いては笑ってみせた。

「婚約者がお望みなら待ってみるけど、いつでも私は「旅行」に行ける用意はするよ」
「その時は気をつけて欲しいともおっしゃっていました」

 つまりはお見通しというわけだ。
 そしてそれを最後の最後に彼は笑って出迎えるのだろう。家出娘を匿ってくれたあの時の優しい彼は、怒るかもしれないがそれと同時に心配もしてくれて、のことをわかっているからこそ、エンマに伝言をしてくれたのだろう。
 今頃は彼はどこにいるだろうか。
 砂漠の国を出た王様に、世界はどのように見えているだろうか。
 ほんの少しだけ、は遠い空の下にいる相手を羨み、それから、「旅行」の準備を始めることを決意した。