きれいな海花が、砂漠に咲いた。
「はじめまして。エスツァン国第一王女のともうします。
・・・えーと、よろしくおねがいいたします。」
水色のワンピースを着た少女は五歳年上の少年二人とその両親を見上げた。
黒い髪を肩で跳ねさせてふっくらした頬をピンクに染めている。
キラキラと好奇心旺盛な瞳はこの王家の一家四人をじっと見ていた。
「こら、。大人しくしてろ。」
「あーい。」
エスツァン国王は父親の顔をしてに微笑む。マクリール王はこのとき三十四歳という若さだった。
その年はが初めてフィガロに訪問し、エスツァン王家の三人がフィガロにやって来た年だった。
三人は貴賓室に案内され、しばしの休憩を与えられた。
「ねー、ミディ兄。なんでこんなに砂ばっかりなの?」
「砂漠だからに決まってるだろ。」
黒い瞳では窓から見える砂漠を見ていた。兄のミディアはの頭を撫でながら当然のように言う。
十二歳の彼にとって二度目のフィガロは見知らぬ土地であり、冒険心をくすぐる場所だった。
焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳。と同じように好奇心の固まりで、瞳はキラキラしていた。
十二歳の標準身長よりは高く、それなりに鍛えられた体つきをしている。
外に出たくてうずうずしているのだが父はそれを許していない。
「なあ父さん、このあとの予定は?」
「昼食。それ終わったら王子二人と遊んでこい、二人とも。」
「も?」
「やった!剣の稽古つけてもらいたい!」
ミディアは一瞬驚いたがまあいいか、と思い直す。最近妹の剣の腕はメキメキ伸びているのだ。
一緒に鍛錬をするときにそう思う。ちょこまか動く分動きが予測できないのだ。
たまに背を取られそうになるが兄としてそれはなんとしても避けねばならないことだったので
最近は一層鍛錬に励んでいた。
「剣はダメだぞ。」
「えー!」
「剣使って誰かが怪我したら国際問題としてヤベーの!わかったか?」
「・・・ケチ。」
「ケチで結構だ。」
のぶーたれる姿にへこたれもせずマクリールは書類を読んでいる。
ぶーぶー文句を言っているにミディアは格闘技すればいいだろ、と助言を一つ。
その瞬間の顔がパァっと明るくなった。絶対ね、と勝手に約束を取り付けて。
それからしばらく兄妹は部屋でしりとりをしてじっとしていた。
マクリールは書類とにらめっこをしたままだった。
控えめなノックとともに昼食の準備が出来たと告げられる。
マクリールは子どもたちに大人しくしてろよ、と念を入れて部屋を出た。
昼食は至って穏やかに過ぎていった。
やミディアの多少の失敗はもちろんフィガロの双子もたまに失敗をやらかしたが、
その辺はお互いの両親が目をつぶることでチャラとなった。
大人は政治の難しい話をするということで子どもは追い出されてしまった。
は稽古、稽古、と水色のワンピースを揺らしながら飛び跳ねる。
「ごめんな、こいつ、こういうのだから。」
「いいって!楽しい妹じゃんか。なあ、エドガー。」
「ああ。元気があって良いじゃないか。」
ミディアと双子、主にエドガーの方が文のやりとりをしていた。
だから二つ離れた双子とミディアはそれなりに仲が良かった。
は楽しそうに喋る兄と双子の少年たちをじっと見ていた。
「どうかした?」
エドガーはにっこりとに微笑みかけた。
この時点で既に彼の女性への対応はほぼ完璧になりつつあった。
その少年の顔を、エドガーの顔をじっと見ている。
そして彼らの国での最大の賛辞を無自覚で言ったのだ。
「眼、海みたいだね。エスツァンの海とよく似てる。」
「・・・ありがとう。最高の誉め言葉だ。なあ、マッシュ。」
「ああ・・・・本当に。」
砂漠で生きる彼らにとって水とは生きるために必要なものであるとともに、
神聖なものとして見られていた。だから水の色を持つことを誉められるということは、
何よりも嬉しい一言なのだ。
「いーなー。髪だってキラキラ太陽の光浴びてきれいだもん。」
「・・・ありがとう、リトルレディ。」
「ああ。最高の誉め言葉だ、本当。」
一国の王女としては口調も、状況も、決して良いものとは言えなかったけれど、
そこには世辞もなにもない、少女の純粋な心が見えた。
そんな言葉を久しく向けられていなかった双子の王子は、
水を象徴する瞳と、この国の土台である砂を象徴する金の髪を
純粋に誉められ、思わず笑みを零してしまった。
もちろん、この小さな少女を気に入ったのは言うまでもない。