たった一言、言いたいこと。
が目を覚ましたときそこは慣れた兵舎のベッドではなく以前止まったことがある賓客用の部屋のベッドだった。
そしてベッドに突っ伏して寝ている人に気付いたときは思わず微笑んでいた。
「おはよう、エドガー」
前髪が落ちている彼は少しだけ幼く見えては思わず可愛いと思ってしまった。相手は年上の男性でこの国の王なのだが可愛いと思ってしまったらなかなかその考えから抜け出せなかった。
そっと手を伸ばして髪に触れてみた。やわらかい金の髪はにはない透けるような独特の美しさがあった。
はしばらくエドガーの寝顔を堪能し、おぼろげながら覚えている夢を反芻してみた。
それから考えがまとまった頃、エドガーが頭を上げた。
「?」
「おはよう、エドガー」
二度目の挨拶をするとエドガーはパチっと目を開けてを見た。それから微笑んでいる姿を見てよかったと安心しきった顔を見せた。
それが自覚したばかりのにはかなりの威力だった。頬が赤くなっていくことに気付いては思わず顔を伏せた。?と聞いてくる声すら今までと違って聞こえるのだから不思議なものだった。
「エドガー、あのね、私決めたの」
「?」
「私エスツァンに帰る。ずっと迷惑かけっぱなしだったし、私まだまだ子どもだった」
逃げられない現実をわかっていたから優しい婚約者に甘えた。現実逃避をしたって何も変わらないのにただ甘えるだけ甘えて、うずくまっていた。
そのままここにいることは自身の心が許さなかった。もっと大人にならなければならない。成長しなければならない。そのためには一度城に帰らなければいけない。そう思ったのだ。
「ああ、その方が良いと思う。ミディアにはお願いしてある」
「本当迷惑かけっぱなしだったから。最初から最後までエドガーは嫌な思いたくさんしたよね」
「が帰ったほうが良いと思ったのはこっちの都合だ」
「だから迷惑だったからでしょう?」
は自身で振り返っても迷惑になることばかりしてきたという自覚はあった。よくもずうずうしいことが出来たものだと思っている。過去の自分に会えるならお説教をしたくなるほどだ。
けれどエドガーの様子は少し違う。何か言いよどんで、けれど伝えようとしている。
「エドガー?」
「…こっちの身がもたないんだ。あんな危険な目に遭ったを助けに行けないことがあるなんて、耐えられないんだ」
「…でも兵士は怪我を負うものでそのたびに王様が出て行ったら」
「だから飛び出してしまう、と言ったらわかるかな?」
決定的だった。さすがのでもわかるぐらいだ。顔を真っ赤にさせてエドガーを凝視していた。エドガーの体に視線で穴を開けたいのかというぐらい凝視している。
エドガーはその驚きように逆に驚いて笑ってしまう。、と呼べば飛び上がりながらの返事。
「エドガー・ロニ・フィガロは・ルー・エスツァンに正式に結婚の申し込みをします。もし少しでも希望があるなら」
その時点では布団から飛び出してエドガーに抱きついていた。
「死ぬかもと思ったとき、一番に会いたかったの。隣にいたいと思ったの。だいすきなの。母様とも父様ともミディ兄ともグレン隊長とも違う。だいすきなの。さっき気付いた」
「しびれる告白だ」
エドガーはその体を抱きしめた。抱きしめ返してくれる腕の力が何よりも愛しかった。他の誰にも渡したくなかった。これだけは、手放せないとそう思ったのだ。
そっと力を緩めて腕の中におさまった宝物を瞳に写した。彼女もまたこちらを瞳に写してくれている。
「先に言われてしまったな」
「だいすきって?」
「いいや。愛してる」
どうしたら良いのかわからず戸惑っているの左手を手に取り左手の薬指にキスを送った。
「、俺と結婚してくれますか?」
「あの、まだ自覚したばっかりで」
「いつまでも待つよ」
「迷惑かけるし」
「本望だ」
「…えと、……はい」
恥じらいながらも嬉しそうに彼女は頷いた。
砂漠の王は一番の笑顔を浮かべ彼の世界一美しい海の花にキスを送った。