誰もが、その言葉に魅了されることを、あなたは知らない。









「エドガー、おーい!」


 仮にも一国の王に対して尊称なしの呼び捨てを出来る人物は少ない。
 まずは現在この国に滞在しているエスツァン国王女。次にこの国の親衛隊隊長。後は古株の中年男性たちぐらいだ。しかしこの声は女性でもなければ渋い声でもない。そのため王女と古参の男性陣は除外。あとは親衛隊の隊長しか可能性としてはないのだが、現在その隊長はエドガーの隣に控えている。よって、新たな第三者という可能性が一番高い。


「グレン、パス」
「いやー、あれでも一応謁見許可を得てるから、無理です」


 いくら謁見許可をもらってもあの対応はないだろう。しかし彼は常にあの調子である。何度も色々な人物がそれぞれ対策を練ったのだが今はもう放置である。彼に礼儀作法をたたき込むこと自体無駄である。叩き込んだとしても次の日にはお宝情報とすり替えられているオチだ。


「エドガー、久しぶりだな。半年振り?」
「…ロック、名前を呼ぶならせめて謁見の間に入ってからにしてくれ」


 自称トレジャーハンター他称反乱軍の一員であるロックはその言葉に笑った。これでは次も廊下を歩いている時点でエドガー!と叫ぶのが目に見える。
 エドガーはそれを想像してつい、笑う。ロックはそれを見てから口を開いた。


「定期的な報告。ああでもその前に、聞いてくれよ!最近この辺でお宝情報を手に入れたんだ」
「わかった。わかったから、後で聞く。今日の午後は時間を空けているから」


 ロックが来ることはエドガーも知っていた。だから今日の午後のために仕事を詰め込んでいた。こうすれば仕事に支障も出ないしロックの相手も出来る。
 ただ問題は、午後からエドガーの護衛を担当するのことだ。
 今日のは午前中ずっと訓練で午後から護衛だと隣のグレンから聞いている。
 この二人を会わせたらどうなるのか。エドガーには想像もできないことだ。







「…ということで、まあ、簡単に言えば変化はなし。現状維持ってところだ」
「ああ。じゃあ変わったことがあればまた連絡を頼む。あちらにもよろしくな」


 帝国と手を結んでいる国が反乱軍とも手を組んでいる。前代未聞である。これがバレたらエドガーは即刻死刑だ。それどころか国中死刑もあり得る。
 なにせ相手はあの、「帝国」なのだから。現在王の右腕的存在の人間が人間だからまた頭が痛い。あの、ケフカなのだ。そろそろこちらに嫌味を携えて視察に来る頃だろう。


「はあ。疲れるな」
「エドガー、独り言呟くと老けるって知ってる?」


 そういうお前が疲れさせて老けさせる原因だとエドガーが呟けばロックは軽く笑うだけだった。
 また一つ、エドガーのため息が増えた。隣のグレンは笑いを堪えるのに必死である。
 ロックは気付いているのかいないのか知らないが彼は生きるトラブルメーカーである。彼が行くところにトラブルがあるのではなく、彼がいることでトラブルが起こっている。全てが全てそうではないだろうがお宝関連ならほぼロックが原因である。


「昼食を、取ろうか。本当、疲れた」
「そうだな。ああ、グレン、あんたも一緒にどうだ?」


 これでも平時は一兵士ですから、とグレンは営業スマイルを浮かべて断った。
 本当の理由はこの二人の会話を聞いていて食事中に吹き出したら困るからだがもちろんグレンはそれを言うことなくじっと立っている。


「グレン、食事の間は他のやつに任せて後からまた来れば良い」
「承りました。じゃあ午後は二人で参ります」


 少しおどけたような調子でグレンはエドガーを見た。彼もまたとロックの会話が気になっているのだ。
 まあ彼の場合は面白半分の面があるのだが。
 エドガーとロックが応接間で食事を取るところまでをグレンは見届け、それからは代わりの護衛としてエリーがやってくる。
 軽く言葉を交わしてグレンは部屋を辞した。






 トレジャーハンターと姫君の反応は如何に?