この旅の間、私の主は頭上にある冠を脇に抱えている。
だから私も、本当なら跪き傅くところを膝を浮かせて立ち上がり、伏せた顔を上げてその姿を追いかけた。
王冠のない主は気負わず、楽し気だった。今もその人が甲板で仲間と談笑するのを見かけてこちらも微笑んでしまう。
「惚れたか」
「はい?」
通りざまに爆弾を落とすのは傷のある男だ。
彼はどうにも人をからかうのを楽しむところがあり、私は時折その餌食になっている。先ほどまで艇の調子を見ると機関部に潜っていたはずだけれど休憩のためか甲板に出てきたらしい。
休憩ついでに人で遊ぶのを止めるよう口を開こうとすればさらに言葉を重ねられる。
「まあ惚れ直した、だろうな。惚れ込んでここまでついてきたんだし」
セッツァーの言葉に顔が歪み眉間に皺が寄るのを感じる。
「主についていくのは臣下として当然です」
「そう言うならそれでもいいさ」
にやりと笑う男は私の答えに納得した様子もなく、かといってこれ以上絡むこともなく、休憩は終わりだとまた姿を消す。
思い出したかのように時折人の心を乱す調子はギャンブルで身に着けたそれだろうか。
甲板の隅で交わされた会話に気づくことなく、主は相も変わらず楽し気に仲間と会話を楽しんでいる。
「それでいいんですよ」
誰もいなくなった後、去ったセッツァーの言葉に応えるように言葉を落とし、彼女は何事もない振りをして仲間たちに午後のお茶の提案をすることにした。
(幕間にて)